雲粒子の乱流クラスタリングによって気象レーダー観測における反射強度が増加する効果について,乱流の直接数値シミュレーション(DNS)による定量的な解明と,対流雲中のような高レイノルズ数乱流場に適用可能な乱流クラスタリングモデルの構築に取り組んだ.乱流クラスタリングモデルとは,乱流中における慣性粒子の数密度変動のスペクトル密度関数モデルである.2年度目までに,大規模3次元DNSを実行し,高レイノルズ数乱流中において重力沈降しながら運動するラグランジアン粒子の乱流クラスタリングデータを取得した.重力沈降によって非等方的な乱流クラスタリングが現れることを,方向別の数密度変動スペクトルにより明らかにした.また,複数粒径の雲粒が混在している場合のレーダー反射強度の増加効果の評価のため,2粒径間の乱流クラスタリングのマルチスケール相関特性を明らかにし,粒径ごとの重力沈降速度差の影響を考慮したモデルの構築に成功した.このモデルを用いて,積雲でのレーダー反射強度に及ぼす乱流クラスタリングの影響を定量的に示すに至った.最終年度には,氷粒子(非球形粒子)の非等方乱流クラスタリングの特性を解明するため,非球形粒子の運動の計算に関する主要論文の主著者と意見交換を行った.DNSデータの提供を受けて数密度変動スペクトルの解析を実施し,弱いアスペクト比依存性があることを確認した.また,ウェーブレット解析法を用いて液滴の乱流クラスタリングのマルチスケール構造を調べた.その結果,重力沈降する慣性粒子に特有のカーテン状クラスタの形成において重要な役割を果たす大スケールにおいては,ボイド形成がクラスタリング機構において重要な役割を果たしていることを明らかにした.これらの成果は,乱流クラスタリングモデルの高レイノルズ数乱流での信頼性向上に繋がると期待される.
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