本研究課題では,非侵襲熱物性計測による皮膚科医の熟練を要さないメラノーマの定量的早期診断及び腫瘍深達度推定手法の確率を最終目的とし,具体的な目標として「皮膚伝熱特性の解明」,「逆問題解析手法の確立」,「生体実験への展開」を設定した.本年度は,特に①非臨床実験による熱物性計測時の皮膚伝熱特性の解明,②数値解析による皮膚腫瘍深達度推定の有用性検証,③臨床実験による有用性検証を実施した. 皮膚近傍の多層構造や熱物性値を模擬した生体等価ファントムを作製し,諸種条件下における皮膚伝熱特性を実験的に検証した.特に,皮膚構造や熱物性値,模擬腫瘍厚さを変化させた場合,有効熱伝導率にどのような影響を与えるか検証した.結果より,保護熱源式サーミスタプローブを用いた場合,皮膚有効熱伝導率は表皮厚さや皮膚水分量に強く依存することが明らかとなった.さらに,模擬腫瘍厚さによって有効熱伝導率の値が変化し,熱物性計測による深達度推定の実現可能性が実験的に示唆された. 数値解析を用いて皮膚腫瘍深達度推定の有用性検証を行った.本解析では,熱物性計測時の熱浸透深さを変化させた際の各腫瘍厚さにおける有効熱伝導率の変化に着目し,検証を行った.結果より,腫瘍厚さによって熱浸透深さを変化させた時の挙動が異なり,それらを用いて逆問題解析を行った結果,妥当な結果を得ることができた. 実際のメラノーマ患者11名(表皮内がん患者6名,浸潤がん患者5名)に対して,病変部を含む皮膚有効熱伝導率計測を実施した.結果より,世界で初めて表皮内がんと健常皮膚の有効熱伝導率の差異の検出に成功した.また,浸潤がんの場合,癌ストローマ形成による血流やリンパ流の増加に伴う有効熱伝導率の上昇を検出し,進行に伴い,その上昇幅が大きくなる可能性を示した.また,より精確な深達度推定には血流やリンパ流等の影響を考慮する必要があることがわかった.
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