研究課題
高性能な電界効果トランジスタ作製に向けては一様に高密度な単層カーボンナノチューブ(CNT)配向構造の合成が必要であることから、化学気相成長法による単層CNTの成長過程について詳細な分析を行った。13C同位体を含有したエタノールを炭素源として用いたラベリング合成とラマンマッピング測定により、従来の手法では得られなかった単一単層CNTの成長曲線を取得することに成功した。多数の単層CNTの成長過程の分析により、単層CNTの構造と成長速度・成長寿命等の関係について知見を得た。これらの結果は、より長尺・高密度かつ高い一様性を有する単層CNT配向構造の合成につながる。また、単層CNTの周囲環境からの保護による安定化と導電特性の向上を目指し、単層CNTと六方晶窒化ホウ素を複合化する手法を開発した。単層CNTをテンプレートとして用い、アンモニアボラン粉末を原料とすることで、単層CNTの周囲に同心状に1層から数層の窒化ホウ素層を合成することに成功した。複数の分光計測と電子顕微鏡観察により単層CNTと窒化ホウ素の構造を分析するとともに、窒化ホウ素層の合成後も単層CNTの導電性が保たれることを確認した。また、窒化ホウ素は高い耐熱性を持つことが知られているが、窒化ホウ素層で覆われた単層CNTは従来の単層CNTよりも高い温度まで空気中での燃焼が生じないことを確認した。2次元物質によるヘテロ構造の研究は近年盛んであるが、本研究で得られた新たな1次元ヘテロ構造も積層構造の制御による物性変調や新奇デバイス応用へと展開する可能性を持つ。
2: おおむね順調に進展している
前年度において合成後処理による半導体単層CNT配向構造の形成に関して進展があったことから、本年度は単層CNTおよび複合構造の合成を中心に研究課題を遂行した。単一単層CNTの成長過程の分析が可能となったことから、従来の単層CNT集合体の研究では得られなかった詳細な成長機構を調べることができ、合成段階での単層CNTの構造制御の道筋が開けたといえる。また、単層CNTと窒化ホウ素の複合構造の作製に成功し、電子デバイス等の様々な応用に利用可能であることを示した。
単層CNTの長尺・高密度合成の実現に向けて、同位体ラベル手法を用い、合成中の添加ガスの影響について単一単層CNTのレベルで分析を行う。具体的には、単層CNTの成長促進の効果を持つ水蒸気、単層CNTの直径を変化させるアセトリニトリルが添加ガスの候補である。また、単層CNTと窒化ホウ素の複合構造を用いて電界効果トランジスタの作製を行うために、基板上に孤立した複合構造を用意する必要がある。孤立かつ架橋した単層CNTをテンプレートとて用意し、窒化ホウ素層の合成を行うとともに、架橋した複合構造を基板上に転写する技術を開発する。
単層カーボンナノチューブ合成の原料となる試薬について当初の計画より少量での実験が可能となったために次年度使用額が生じた。次年度の試薬および合成用基板の購入に用いる予定である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件) 学会発表 (36件) (うち国際学会 15件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Carbon
巻: 146 ページ: 413~419
10.1016/j.carbon.2019.01.109
ACS Nano
巻: 12 ページ: 3994~4001
10.1021/acsnano.8b01630
Japanese Journal of Applied Physics
巻: 57 ページ: 075101~075101
10.7567/JJAP.57.075101
Applied Physics Letters
巻: 112 ページ: 191904~191904
10.1063/1.5021696
巻: 113 ページ: 081101~081101
10.1063/1.5042798
physica status solidi (b)
巻: 255 ページ: 1800187~1800187
10.1002/pssb.201800187
巻: 57 ページ: 115101~115101
10.7567/JJAP.57.115101
巻: 57 ページ: 102701~102701
10.7567/JJAP.57.102701
http://www.photon.t.u-tokyo.ac.jp/index-j.html