本研究の目的は,微細加工技術を使用しない安価な方法で液滴の輸送を制御する手段を確立することであった.特に,液滴と固体面の両者に非接触な状態で液滴を輸送する技術はほとんど確立されておらず,これは変形が困難な凝縮器の内面や危険性のある薬品を1滴単位で扱う場合などへの適用が考えられる技術である. H29年度ではBreath Figure法を用いた微細構造を作製し,磁性を持つ粒子を混ぜ込んだ柔軟性のあるポリマー(ポリジメチルシロキサン:PDMS)を流し込むことで転写することに成功した.しかしながら,磁石を近づけても変形する様子が見られなかったため,まずミリスケールの突起状構造を作製し,その上に物体を置いた状態で磁石を近づけることで構造が変形し,物体を動かすことを確認した. H30年度では,サブミリスケールの構造を実現するため,PDMSを流し込む型を作製した.型の部材にはカッターの刃を用い,刃と刃の間隔を0.1から0.5mmの値とした後で磁性粒子を混ぜたPDMSを流し込み,硬化させた.完成した試料はPDMSの平板が複数平行に並んだ構造になっており,10μLの液滴を滴下したところ,構造上に乗ることを確認した.また,磁石を近づけることで構造が変形し,液滴中心の位置が液滴直径の半分程度移動することを確認した.これより,高価で時間を要する微細加工技術などを使用することなく,非接触で液滴を動かすことができるデバイスを確立することができたといえるが,液滴の三相界線が固定されているなど,今後の課題も多い.
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