研究課題/領域番号 |
17K14610
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
荒井 規允 近畿大学, 理工学部, 准教授 (80548363)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 界面活性剤水溶液 / 自己集合 / ミセル / 固液界面 / 分子シミュレーション |
研究実績の概要 |
本年度は昨年度に開発した境界条件に密度勾配を与える方法のプログラムを使用し,実際に円管流れ下における界面活性剤水溶液の挙動を再現,解析を行った.トムズ効果に影響を与えるパラメータとして様々なものが知られているが,まずは界面活性剤分子が持つ炭素鎖の長さと,円管壁面の化学的性質の2つに着目して,流れの速度の影響を調べた. その結果,比較的炭素鎖の長さが短い場合,流れが遅い場合球状ミセルが形成されるが,流れの速度が増加するにつれて球状ミセル同士が衝突によって長い棒状・紐状のミセルへ成長し,粘度の減少が観察された.一方,炭素鎖が比較的長い場合,速度が遅いときには巨大な球状ミセルが形成され,粘度が流れの速度によらないニュートニアンのような振る舞いを示すが,流れが早くなるにつれて棒状ミセルの出現,さらに棒状ミセルが引き伸ばされることによって,粘度の増加が観察された. さらに管内壁面の化学的相互作用を変化させた時,親水的な壁面の場合,界面活性剤の濃度にかかわらず流れの速度が速くなるにつれて粘度の減少が見られたが,疎水的な壁面の場合,濃度が低いときにはニュートン流体のような振る舞い,濃度が高いときには粘度増加が観察された.この原因はミセルの破壊と弾性乱流の発生に伴うものだと示唆された. また現実により近く,妥当性のある結果を得るためには巨大な系と長時間のシミュレーションを行い,十分な統計量を得ることが必要である.OpenMPやFDPSを使用した高速化コードの開発は引き続き取り組んでいる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた研究計画通りに進めることができた.トムズ効果のメカニズムを調べるために,まずは2つのパラメータについて詳細に検討できた.さらに結果は投稿論文で発表することができたため,順調に進展している,とした.
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今後の研究の推進方策 |
シミュレーションの高速化に関するプログラムコードの開発,特にFDPSフレームワークの導入は引き続き行う予定である.いくつかのパラメータについて,管内流れ下における界面活性剤水溶液の挙動を再現し,粘度挙動を詳細に検討することがが可能となったため,これを踏まえ,抵抗低減に関する検討を行い,トムズ効果発現の分子論的な原因を特定する.そのためには,高レイノルズ数における流れを再現する必要がある.現在,計算の効率化のため円管半径を小さく抑えたため,レイノルズ数が小さくなってしまっている.半径をより大きくした大規模なシミュレーションを行い,抵抗低減率を測定し,それとミセルのサイズや形状,棒状ミセルの配向性や伸び,界面活性剤分子の親水性・円管の半径や化学的な相互作用とどのような関係性が見られるかについて検討することを予定して いる.
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次年度使用額が生じた理由 |
謝金(主に英文校正を予定していた)については,ある程度の成果が得られたものの,代表者が取り組んでいるその他の研究と同時に発表や研究討議を行ったため,そちらで獲得している予算からも支出を行った.さらに,物品費として大型のワークステーションやラックを購入予定であったが,研究代表者の所属の移動(研究拠点の変更)が研究年度の早い段階で確定したため,引っ越しにかかる費用を考慮し,購入を差し控えた.限られた研究資源であったが,研究室内で研究を分担することで,研究進捗や論文発表は予定通り行うことができた.以上より結果として使用額に差異が生じた.次年度は差し控えた分の物品を購入することで,研究の加速を図ることを予定している.
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