本研究は粘稠状物質がもつ流動性と付着性を広帯域超音波パルスによって測定することを目的としている.超音波パルスを使うことでかたい容器の内部にある物体も測定できるため,従来の粘度測定法や動的粘弾性測定法に比べてプロセス中のモニタリングや非破壊検査に適すると期待される. 前年度までに容器内の液体が持つせん断粘度は概ね同定可能であったものの,体積粘度は真値から二桁程度異なった値が得られる問題が確認されていた.そこで本年度は,容器内の液体を一次元の集中系モデルで表現し,粘度に関する指標を導出,評価した.指標は一次元モデルの基礎支持減衰と連結減衰である.これらのうち,著者らの従来の研究で基礎支持減衰がせん断粘度に対応することがわかっていた.本年度は新たに連結減衰について評価し,せん断粘度と体積粘度が同オーダである液体においては連結減衰も粘度の指標となりうるという知見を得た.連結減衰は集中系モデルの離散化に影響されるため,この点への考慮は必要なものの,せん断粘度および体積粘度を陽に含む利点をもつ.したがって,簡便な一次元集中系モデルによる表現で,せん断粘度と体積粘度を同時に評価できる可能性が出てきたと言える.このほか,従来はせん断粘度が10 mPas程度の低粘度の液体からは上記の指標を精度よく得られなかったが,実験方法を改良して低粘度の液体からもこれらを得られるようになった.得られた各指標と粘度の関係は,より高粘度の液体と同様であり,各指標で評価できる粘度の範囲が広がった.一方で,弾性の測定は難航しており,弾性の測定結果を活用した粘度測定の簡素化にも成功していない.この点については,特に超音波パルスの瞬時振動数を利用した方法に可能性があるとみて現在も検討を続けている.
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