研究課題/領域番号 |
17K14625
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
洞出 光洋 大阪大学, 工学研究科, 助教 (30583116)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞操作 / 細胞特性計測 / ナノ・マイクロシステム / 知能機械学 / 画像処理 |
研究実績の概要 |
毛細血管を模擬したマイクロ流路内で赤血球を拘束し,さらに拘束させる負荷時間を増加させたところ,赤血球の色が変化する現象を発見した.29年度においては,色変化に関して,どの領域が,どの時間帯に変化するのかという情報取得を実施した. 今回実施した解析実験により,負荷時間の増加と共に,色変化がほとんど起こらない領域が存在し,負荷直後1secと300secを比較したところ,グレイ値の変化が5以下の箇所が存在した.この領域は,赤血球と壁との接触領域,その2つの接触領域からもっとも離れた狭窄部中央付近であった.また,壁からの接触がなく,細長くなった赤血球の両端も色変化がほとんど起こらない領域であった. 一方,負荷時間の増加と共に,色変化が多く起こる領域も存在し,負荷直後1secと300secを比較したところ,グレイ値の変化が30以上の箇所が存在した.この領域は,赤血球と壁との接触領域同士を4分割した際に,壁面から1/4と3/4離れた領域で特に変化が大きいことが分かった.また,細長くなった赤血球の中央付近でも色変化が大きく,約20以上のグレイ値の変化が確認できた. また,赤血球全体で見た場合,1secから200secで色変化が起こり,全体でのグレイ値の変化は1secと200secを比較したところ80以上となった.一方200secから300secでは色変化がほとんど生じず,全体でのグレイ値の変化は60secと300secを比較したところ10以下となった.1secから200sec,2000secから300sec,の両者を比較すると,単位時間あたりで4倍違うことが確認できた. 上記に示すように,負荷の時間と色の変化は領域ごとに異なる挙動を示し,さらに非線形的であることが今回の解析により明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,細胞特性計測をビジョン情報を元にした色変化という指標で提示する取り組みを実施した.このような取り組みは実施例がなく,一定の法則性を確認することが必要であった.本年度においては,赤血球の色変化に関する時間・領域特性を把握することができた.また基盤技術であるマイクロ流路製作において再現性を上げることができた.さらに赤血球以外の細胞トラップや,細胞操作技術についても実施することができた. 負荷の時間と色の変化は領域ごとに異なる挙動を示し,さらに非線形的で起こっているという法則性を導き出すことができ,大きな進捗をもたらす結果となった.特に,赤血球の変形性能は疾病との関係がよく知られており,変形性能との相関を明らかにすることで,赤血球の性質や疾病との相関提示に繋がると期待できる.例えば,どの時間帯のどの領域の変化をみれば,変形性能が高いという指標が提示できる可能性が高く,今回はそれらのデータベースと成り得る,知見を得る方法論を提示することができた. また,赤血球を拘束するためのマイクロ流路の製作に関しても,再現性の高い製作プロトコールを確立することができた.特に高さ3.5μmを有し,狭窄部幅が3.0~3.5μmという一般的なフォトリソグラフィで製作できる流路としては高い分解能が要求される技術であるため,高い歩留まりと再現性を確立することは,実験システムを構築する上で重要な基盤技術である.今回は,SU-8レジストを用いた分解能が低いが容易に製作できる手法を,露光および現像条件を最適化することで,分解能を高めることに成功した. その他,マイクロ流路を用いる細胞実験に関して,赤血球以外の細胞を流路内にトラップする手法も実施することができ,一定の成果を得ることができた.また細胞を拘束する手法についても,他の技術を習得し,比較検証をすることもできた.
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今後の研究の推進方策 |
今回の結果から,色変化が起こる領域が赤血球細胞の特定個所に存在することが確認できた.また拘束時間と色変化には非線形的な相関があることが確認できた.今後は赤血球の変形性能と,色変化領域や色変化時間との相関性を明らかにしたい. 力学的負荷により,強制的に変形させられた赤血球が,表面積を小さくしようとして形状変化を起こしている,あるいは内部応力が上昇して黒くなるメカニズム等が考えられる.そのため,有限要素法を用いて赤血球に印加される負荷情報の取得を実施していく. また,色変化から赤血球変形性能(硬さ)を予測する手法を確立することを目的に,色変化と変形性能との相関を定量的に導出していく.変形性能を導出するパラメータ(特定時間の色変化等)を導出できれば色変化指標を利用した新しい診断方法へ応用できる可能性がある.具体的には,任意の負荷時間における,拘束前後の赤血球の直径を計測し,形状回復時定数を算出する.また色変化量も合わせて取得する.これらの情報群から,色変化と変形性能の定量化を行う.さらに硬さや大きさの異なる赤血球を用いて,同じ計測実験を実施する.すでに再現性高くマイクロ流路を製作する手法を確立できたため,流路の個体差による計測結果への影響 を最小限に抑えることができる.統計的有意差が現れるパラメータ(特定時間における色変化等)を導出し,変形性能を予測可能にするパラメータを検索する.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度においては,高速カメラと解析を実施するノートPCの購入をおこなわなかったため,当初使用額との差が生じた.現状備え付けられた高速カメラとノートPCで,一定の解析結果が得られたこと,またこれらの結果を踏まえて購入する高速カメラとノートPCの選定を行いたかったため,購入を見送った.しかし,次年度上半期にこれらを購入する予定であり,当初計画した業務遂行に影響はなかった. また,学会参加を予定していた電気学会センサシンポジウム,計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会においては,科研費業務以外での研究用務も兼ねていたため,そちらから旅費を支払った.また上記国内学会にて成果発表したため,外国旅費として必要なくなった.以上より当初計画した業務遂行に影響はなかった.
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