研究課題/領域番号 |
17K14630
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
坂口 勝久 早稲田大学, 理工学術院, 主任研究員(研究院准教授) (70468867)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | クエットフロー / 大量細胞培養 / 回転浮遊培養 / 再生医療 / バイオ医薬 |
研究実績の概要 |
遺伝子工学を応用して製造するバイオ医薬品や、ES細胞・iPS細胞から組織や臓器を作り出して治療を行う再生医療が新しい時代を切り開く医療として注目を浴びている。しかしながら、これら次世代医療には膨大なコストがかかってしまい社会的に大きな負担となることが懸念されている。そこで、安価に膨大な量の動物細胞を製造する技術が開発できれば、医療の拡大のみならず次世代バイオテクノロジーの研究が推進される。本申請研究ではクエットフローを用いた回転浮遊培養を行うことで、細胞に対する衝撃力を押さえながらも、栄養分や酸素の供給、および老廃物の除去を促進する大量細胞増殖培養法の開発を目的とする。 クエットフローとは、2つの同心回転円筒の隙間にある液体に生じる流れであり、培養器内の全ての場所において均等なせん断応力が発生する極めて安定した流れである。これにより、従来の撹拌によって生じていた細かい渦や乱流による局所の高せん断応力や細胞同士の衝突を大幅に減少させ、大量の細胞を増殖させることを考案した。 平成29年度は、WHEATON社製スピナーフラスコと、エイブル社製iPS細胞培養用バイオリアクターを基に、クエットフローを作用させる撹拌棒を開発した。次に、新規バイオリアクターが実際にクエットフローを生じさせるかを観察するため、Particle Image Velocimetryシステムを使用した。観察した結果、50~1500rpmにおいてクエット流れが確認でき、極めて安定的な流れが観測できた。そして、この流れを使って治療用タンパク質を作る際に用いられている細胞HEK293の50rpm回転培養実験を行なった。培養期間3日後の細胞増殖率は、クエットフローが約2.5倍、従来のプロペラ方式が約4倍、培養皿では約10倍を示した。従って、従来方式や培養皿に比べて細胞増殖率は低い結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の実験計画は、①クエットフローを実現できるバイオリアクターを開発すること、②Particle Image Velocimetryシステムを用いて実際にクエットフローが実現できているかを確認すること、③新規バイオリアクターを用いて、動物細胞を培養してみることである。 まず、①に関して撹拌棒を安定的に回転させる機構を開発した。事前実験ではWHEATON社製やコーニング社製のスピナーフラスコで使われている方式である回転撹拌軸が蓋に接続している方式を採用していた。しかしながら、蓋に接続している撹拌棒では、容器の壁との平行度が正確に取得できないため、エイブル社製iPS細胞培養用バイオリアクターの設計に使用されている「容器に撹拌軸を接続する方式」を採用し開発を行なった。これにより、極めて安定的な撹拌軸の回転を実現することができた。次に、②開発した新規バイオリアクターの流れの解析を行なった。マイクロオーダーの蛍光粒子を培養液中に浮遊させてレーザーを照射し、ハイスピードカメラで蛍光粒子の反射を撮影することにより流れの可視化検証を行なった。その結果、クエットフローの実現を確認した。最後に、③に関してHEK293細胞を用いてクエットフロー培養を行なった。その結果、動物細胞を培養できることが確認できた。 従って、平成29年度は、これらの項目をすべてクリアしているため、おおむね順調にしていると考えている。しかしながら、予測していた細胞培養増殖率の向上は達成できていないため、次年度この改良を行う。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の実験結果を受けて、以下のことを改良し細胞増殖の向上を図る。①回転数の最適化を行う。平成29年度の実験では50rpm回転数での検討を行なったが、極めて安定的な層流が発生しているがために、酸素栄養素の供給が不十分であった可能性がある。そこで、100rpm~1500rmpまで検討を行うことで、上部下部の撹拌が進み、テーラークエットフローも含めて最適な流れを見出す。さらには、従来法のプロペラ式の撹拌棒と比較し、撹拌棒の形状による得意な流れが把握でき、大量培養の可能性を見出す。次に、②酸素の供給が潤沢な容器の開発を行う。現在、ポリスチレン容器を使用しているため、ボトム、サイドからのガス供給は難しく、空気との境界線は液体の上面でしかなく、十分な酸素を取り組むことができない。さらには、クエットフローによって層流であるがために上層の流れと下層の流れが交わることがない。したがって、容器下部への酸素供給はかなり困難と考える。そこで、培養容器をシリコン製にすることで容器のサイドおよびボトムから酸素を供給し、培養皿の環境と同じくらいのガス供給環境を構築する。以上の対策が成功した際には予定していた平成30年度の計画であるスケールアップを図り、大量細胞培養の実現を達成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年使用予定していた細胞種が2種類あったが、実際には1種類の実験になった。したがって、平成30年度ではHEK293およびCHO細胞をの2種の細胞、もしくはそれ以上の細胞種の実験を行うため、次年度の使用額が生じた。
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