研究課題/領域番号 |
17K14639
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
河辺 賢一 東京工業大学, 工学院, 助教 (60634061)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電力系統 / 過渡安定性 / 同期発電機 / 広域計測システム / 励磁制御 |
研究実績の概要 |
送電線への雷撃などの擾乱発生時に,電力系統内の同期発電機群が同期外れを起こすことなく再び同期状態に回復しうる能力のことを過渡安定性と呼び,電力系統の運用では過渡安定性の維持が必要不可欠である。今後,再生可能エネルギー大量導入に伴い,過渡安定性が損なわれることが指摘されており,その対策が必要である。 本研究では,将来の電力系統にも適用可能な系統安定化技術として,リアルタイムの広域計測データを利用した発電機励磁制御理論を新たに開発した。提案理論では,広域計測データから,発電機の励磁電流の変化に対する有効電力出力の変化(出力感度)を算出し,出力感度と発電機の回転子角速度情報を利用して,電力系統の動揺エネルギーの早期減衰を促すように励磁電流を変化させる。 提案理論による安定化効果は,国内外で開発されている電力系統の標準モデルをつかった計算機シミュレーションによって検証した。その結果,発電機近傍のローカル情報を使った従来の発電機励磁制御手法と比べ,提案手法は高い安定化効果をもつことを明らかにした。また,提案手法は,従来手法と異なり,電力系統の様々な運用状態・事故条件に対しても,制御系パラメータのチューニングをすることなく,系統安定化を可能にすることを確認した。このことは,再生可能エネルギーの導入によって状態変化しやすくなる将来の電力システムにおいても,有効に機能しうることを示唆している。 ただし,提案手法は広域計測データを基に制御動作を決定するため,データの計測・通信・演算にかかる遅れを無視できない。そこで,広域計測データに係る遅れが過渡安定性に与える影響について調べ,遅れが長くなるほど,提案手法の効果が低減することを確認した。次に,その対策として,広域計測データの推定及び制御演算の簡略化を可能にする手法を開発し,シミュレーションによってその有効性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、以下の研究課題について実施し、一定の成果が得られたため。 ・広域計測データに基づく新しい発電機の励磁制御理論を開発し、シミュレーションによって電力系統の過渡安定性の向上効果を確認した。 ・想定外の系統条件を模擬し、既存の励磁制御システムを提案システムの安定化効果を比較し、提案システムの優位性を確認した。 ・広域計測データの収集に係る時間遅延への対策として、広域データの推定理論を提案し、その有効性を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
提案理論では、電力系統の広域計測データの利用を前提としているが、その実現のためには情報通信遅延や情報欠損の懸念がある。そこで、提案理論に基づき、制御に必要となる情報の推定手法の開発や、理論の近似手法の開発を進めることによって、提案システムの実現性の向上に向けた取り組みを今後の推進方策とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
得られた成果について論文誌へ投稿をした結果,非採択となり、非採択理由にもとづいてこれまでの研究成果に関連する追加実験を要することとなったため。 次年度助成金は、追加実験に必要な物品費、情報収集のための旅費、および論文誌への投稿費用にあてる。
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