送電線への雷撃などの擾乱発生時に,電力系統内の同期発電機群が同期外れを起こすことなく再び同期状態に回復しうる能力のことを過渡安定性と呼び,電力系統の運用では過渡安定性の維持が必要不可欠である。今後,再生可能エネルギーの大量導入に伴い,過渡安定性が損なわれることが指摘されており,その対策が必要である。 本研究では,将来の電力系統にも適用可能な過渡安定性の安定化手法として,リアルタイムの広域計測データを利用した発電機励磁制御手法を新たに開発した。提案手法では,広域計測データから,発電機の励磁電流の変化に対する有効電力出力の変化(出力感度)を算出し,出力感度と発電機の回転子角速度情報を利用して,電力系統の動揺エネルギーの早期減衰を促すように励磁電流を変化させる。 提案理論による安定化効果は,国内外で開発されているいくつかの電力系統の標準モデルをつかった計算機シミュレーションによって検証した。その結果,発電機近傍のローカル情報をつかった従来の励磁制御手法と比べ,提案手法は高い安定化効果をもつことを明らかにした。また,提案手法は,従来手法と異なり,電力系統の様々な運用状態・事故条件に対しても,制御系パラメータのチューニングをすることなく,系統安定化を可能にすることを確認した。このことは,再生可能エネルギーの導入によって状態変化しやすくなる将来の電力システムにおいても,有効に機能しうることを示唆している。 さらに,広域計測データの計測・通信の遅れによる悪影響を緩和するために,提案手法と既存の電力系統安定化装置(PSS)を組み合わせた発電機の励磁制御手法を提案し,シミュレーションによってその有効性を確認した。本手法では,制御系パラメータのチューニングは必要となる一方で,リアルタイムの広域情報通信を必要とすることなく,既存のPSSよりも高い安定化効果が得られることを示した。
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