研究課題/領域番号 |
17K14641
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
上口 光 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (30536925)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高耐圧回路設計 / 集積化技術 / パッケージ化技術 |
研究実績の概要 |
信州大学では人体の動作を補助するウェアラブルスーツの研究を行っている。その実用化に向けて、アクチュエータ駆動回路最適化による、省電力化、コンパクト化が最大の課題になっている。そこで本研究課題では、アクチュエータ駆動回路とそのパッケージ、基板、更に制御コントローラ回路を含めたサーボアンプシステム全体の最適化、小型化を目指している。 初年度である本年度は、まず第一段階としてアクチュエータ駆動回路設計のための高耐圧トランジスタ回路設計環境を構築し、アクチュエータドライバ回路と電源回路などその周辺回路の回路設計、レイアウト設計を実施した。また、トランジスタの発熱等を考慮したシミュレーション/評価環境を構築し、より精度の高い高耐圧集積回路の設計技術を確立し、パッケージ設計に適用可能とした。確立した設計環境を用いて、検討を行った結果、従来のブートストラップ回路を使用しNMOSトランジスタのみでドライバ回路構築する場合よりも、CMOSトランジスタを用いた方が、追加で必要となる降圧電源回路を含めて考えた場合、電力効率の面と実装面積の観点で有利であることが分かった。また、サーボ制御に必要な各種センサ回路に関しても回路設計を開始し、温度センサを試作、測定評価を行って集積化に向けた検討を実施した。 また、周辺回路の第一段階検討として、制御コントローラとして使用するCPU回路の選定とOSを含めたソフトウェア最適化を行った。最新製造テクノロジとマルチチップパッケージを利用したARMプロセッサを選定し、サーボ処理の高速化を図った。また、制御OSをリアルタイム化することにより、通信安定化を実現し、システム全体の信頼性向上を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である本年は、使用するMOSトランジスタデバイスのサイズ最適化、及び、適切な耐圧条件のデバイスを選定し、回路設計を行うことが当初目標であった。そのために、まずは、シミュレーションにより必要な耐圧条件をしっかりと見定めて、今回のターゲットに適したトランジスタ耐圧を選定し、使用する製造テクノロジを決定した。パッケージ配線のモデル化を行い、それぞれのケースで必要な追加回路を含めた検討を行った結果、高耐圧CMOSテクノロジが電力、基板を含めた実装面積の観点で有利であることが分かった。また、適切な耐圧マージン設定により、現在使用している耐圧120Vのドライバ回路が耐圧40V(±15VのACサーボアンプを想定)に削減したことにより、デバイスのオン抵抗は半分以下になるため、大幅な消費電力削減と、発熱抑制効果が期待できることがわかった。これらの回路を回路設計、レイアウト設計まで完了した。当初計画では、初年度の最後に設計データを提出し外注する予定であったが、そのシャトルの試作スケジュール変更に伴い、次年度にこの外注は持ち越しとなった。 当初計画では二年目以降に開始予定であった周辺回路を含めた最適化検討を開始した。第一段階として、制御コントローラのソフトウェアを含めた最適化と、温度、湿度センサ回路の小型化検討を実施した。制御コントローラの最適化では、まず適切なCPU選定を行い、OSをリアルタイム化することにより、計算マージンの確保、通信安定化が実現され、システム全体の信頼性向上につながる成果が得られた。また、温度、湿度センサ回路においては、集積回路を設計、試作し、測定による評価を行い、集積化により従来技術よりも、大幅な実装面積削減が得られることを実証し、これらの成果を国際会議、雑誌論文などで発表した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降は初年度の内容に加えて、以下の課題についても取り組む予定である。 ● 高耐圧ドライバ回路のワンパッケージ技術とそのモデル化に関する研究 平成29年度の実施した内容を発展させて、『(A) 熱、電気回路等、各種シミュレーションによる、最適な回路、及び、チップ配置』の高耐圧トランジスタの回路設計技術にフォーカスして研究を行う。大電流をサポートするパッケー技術に対して、『(B) アクチュエータ形状に適したパッケージ形状』、『(C)放熱性、及び、安全性を考慮した最適なパッケージ材料、及び、実装手法』のために最適なパッド形状やチップ内のパッドへの配線手法などを検討する。また、前年度計画であったチップ試作も、平成30年度以降に、より改善したものを設計した上で、試作、評価を行うものとする。 ●各種フィードバック信号に基づいたPWM信号生成回路と制御プログラムの作成 サーボアンプ回路構成要素の内、制御回路や過電流検知/保護回路、各種センサ回路は低電圧で動作する標準CMOS技術で実現可能である。最終目標は全てを専用ICとし超小型なパッケージを実現することであるが、プロトタイプとしては、まずは既製品で代用可能なMCUを選定し、利用すること優先して考えていた。当初計画ではこれを平成30年度以降に行うことになっていたが、MCU選定は平成29年度に前倒しして行ったため、平成30年度はより具体的な制御手法や実装方法の検討を行う。具体的には、平成29年度成果であるリアルタイムOS上で動くアクチュエータ制御プログラムの構築と検証を行う。また、各種センサ回路についても、平成29年度に作成した超小型温度、湿度センサの設計技術等を活用し、過電流を検知しシステムを保護する電圧、電流モニタ回路の設計に繋げる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
【研究実績の概要】欄と【現在までの進捗状況】欄で述べた通り、今回の設計ターゲットに適した高耐圧トランジスタ製造プロセスのファウンダリサービスを検討した結果、当初使用する予定であったA社の高耐圧プロセスでは予算的に難しいことから、比較的費用が安く、またターゲットの目標を実現可能である別の製造プロセス技術の検討を行った結果、B社の0.6V高耐圧プロセスを選定した。ところが、ファウンダリが提供する試作スケジュールが次年度にずれ込んだため、やむなく高耐圧回路の試作費を次年度以降に繰り越した。また、その代替として、センサ回路の試作を前倒しして行ったため、差額が生じた。 本年度実施できなかった高耐圧回路の試作は、【今後の研究の推進方策】欄に示した通り、平成30年度以降に実施する予定である。
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