研究課題
トランジスタにおけるオン・オフスイッチの急峻化は、その低消費電力化に向けて重要な課題の一つである。しかし、現在のテクノロジーの根幹であるシリコンMOSFETにおいては、その急峻化に限界があった。本研究では、相転移に由来する急峻な抵抗変化を示す強相関酸化物と、どこへでも張り付けられる半導体「原子薄膜半導体」とを用いることで新奇ヘテロ構造トランジスタを作製し、MOSFETの限界を超える急峻スロープスイッチングの実現を試みた。具体的には、室温近傍で4桁におよぶ抵抗変化を伴う金属―絶縁体相転移(MIT)を示す二酸化バナジウム(VO2)を電極、優れた半導体特性を示す二セレン化タングステン(WSe2)をチャネル、さらに六方晶窒化ホウ素(hBN)をゲート誘電体としたヘテロ構造トランジスタを作製した。このトランジスタにおいて、ゲート電圧を印可するとVO2の熱的MITが誘起され急峻なスイッチングを実現することが出来た。さらに、トランジスタの輸送特性を詳細に調べVO2とWSe2との界面においてショットキー障壁が形成されおり、この接触抵抗がトランジスタ性能のボトルネックとなっていることを明らかにした。今後、このヘテロ構造におけるオン・オフスイッチの急峻性をさらに向上させるためには、局所縮退ドーピングや界面にトンネル障壁となる材料を挟み込むなどして接触抵抗を低減させる必要があることを示した。また、VO2をチャネル、hBNをゲート絶縁体とした急峻スロープトランジスタの作製も行った。まず、バックゲート型VO2トランジスタの創製を視野に入れ、hBN基板上にVO2を直接薄膜成長させる方法を開拓した。さらには、hBNをVO2トランジスタのトップゲート絶縁体として利用することで、安定動作することも明らかにした。
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