平成31年度は、希土類金属元素(R)と遷移金属元素(T)から構成されるRT5型規則合金のTサイトを従来のコバルト(Co)から鉄(Fe)で置換することを試みた。1原子あたりの磁気モーメントがCoに比べて大きなFeで置換することにより、RT5型規則合金の飽和磁束密度の増加が期待される。はじめに、サマリウム(Sm)とCoの規則合金(SmCo5)、Smとニッケル(Ni)の規則合金(SmNi5)のエピタキシャル薄膜の形成が可能であることが前年度までに示されているクロム(Cr)の(100)単結晶下地層を用いて、エピタキシャルSmFe5規則合金薄膜の形成を試みた。しかしながら、薄膜成長温度を変化させた場合においても結晶化が起こらず、アモルファス相が形成された。そこで、TサイトをFeで完全置換するのではなく、Co:Fe = 0.3:0.7、0.5:0.5、0.8:0.2の原子濃度比で部分置換することにより改善を試みたが、いずれの場合もアモルファス相が形成された。更に、Cr下地層の配向面を(100)からSmCo5やSmNi5規則合金の形成実績がある(211)に変更した場合においても、また、下地層元素をCrから銅(Cu)に変更した場合においても、規則合金相を得ることが出来なかった。バルクの平衡状態図ではSmFe5規則相が存在しないことが知られているが、準安定相の形成が可能な薄膜においても形成が容易でないことが示された。平成29~31年度の研究により、RT5合金膜のRおよびTサイトの元素選択に関する課題が明確となった。そして、元素選択および多元化により結晶性が優れたRT5合金膜の形成可能性が増大することが示され、それに伴い、構造および磁気特性の制御範囲の更なる拡張も期待される。本研究の技術は、硬磁性RT5合金膜の形成基本技術として高い可能性を持つと考えられる。
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