研究課題/領域番号 |
17K14661
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
渡辺 隆之 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (80771807)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | テラヘルツ / グラフェン / フーリエ赤外分光計 / レーザー |
研究実績の概要 |
本研究は、炭素原子の単層シート: グラフェンの特異な光電子物性を積極的に活用し、従来成し得なかった電流注入型の室温テラヘルツ帯レーザーを実現しようとするものである。平成30年度の研究実施計画としては、平成29年度より試作・評価していた素子に用いたグラフェンチャネルのキャリア輸送特性をホール測定およびテラヘルツ時間分解分光計測により評価し、DGG構造の幾何学的パラメータと合わせてSPP共鳴周波数を推定し、平成29年度実施の実験結果と比較・分析するというものであった。 平成29年度は電子ビーム蒸着装置の不調によるアルミニウム層の均一な堆積が行えず、デバイス試作に支障をきたしたが、平成30年度は同蒸着装置の問題を解決し、グラフェンテラヘルツプラズモニックレーザーデバイスの第一試作を完了した。試作後、ただちにキャリア輸送特性の評価を行ったが、得られた特性は意図したものではなかった。その理由として、一つにはSiC基板上に成膜したグラフェンの質の悪化が挙げられる。グラフェン膜の形成にはRF電気炉によるSiC基板の熱処理過程があるが、プロセス管理に必要不可欠な温度コントローラに不調があることがわかった。また、二つ目の理由としては、グラフェンデバイスの作製過程でグラフェン層上に堆積後、除去するアルミニウム犠牲層が残留しており、試作デバイスが意図した動作をしていないことが判明した。以上の2点のプロセス不良についての原因究明と対応により、予定していたデバイスの試作を年度内に終えることはできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要の通り、デバイス試作に必要なRF電気炉の制御およびアルミニウム犠牲層の除去についてのプロセス不良があったため、第一試作で得られたデバイスが意図する動作をしなかった。今後は速やかにプロセスを見直し、以上の2点についてのプロセス不良を解決する。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、速やかにプロセス不良を解決し、当初に予定していたデバイスの試作を完了する。そして、試作したデバイスについてのフーリエ赤外分光計による測定をおこない、テラヘルツ放射特性の評価を行う。また、試作したデバイスのグラフェンチャネル層についてのキャリア輸送特性を物性パラメータとして プラズモン共鳴・超放射現象をモデル化し、グラフェンテラヘルツプラズモニックレーザーの設計指針の構築を進める。 さらに、平成31年度は研究実施計画の通り、従来構造のグラフェンテラヘルツレーザーデバイスと併せ、モデル化により設計した新規DGG構造を搭載したグラフェンレーザ-デバイスを試作し、再度、フーリエ赤外分光計により評価を行う。ここでも新規DGG構造により規定されるプラズモン共鳴周波数における放射強度の増大を確認するとともに、キャリア注入効率の向上による放射強度-駆動電圧特性における放射しきい値電圧の低下を確認し、DGG構造導入の効果を評価・検証する。 以上の要領で、二重回折格子構造で特徴づけられたグラフェン表面プラズモンポラリトンの共鳴利得増強作用ならびに超放射現象を発現せしめ、桁違いに高い量子効率と利得増強効果の獲得とともに、レーザー発振閾値の低減を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績の概要に記した通り、平成30年度はデバイスの第一試作は完了したものの、意図した動作をしなかったため、テラヘルツ放射特性評価をはじめとした種々の測定に着手できなかった。そのため、プロセスに必要な消耗品は計上したが、実験に際して必要となる実験用光学部品や実装基板、試料ホルダー等は発注できずにいた。次年度は、光学実験に必要な部品を直ちに発注するとともに、2世代目以降のデバイス試作に必要となる基板やプロセス用消耗品の補填、発展評価のための実験用部品の購入にあてる。
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