研究課題
本研究は炭素原子の単層シート:グラフェンの特異な光電子物性を積極的に活用し、従来成し得なかった電流注入型の室温テラヘルツ(THz)帯レーザーを実現しようとするものである。平成31/令和1年度の研究実施計画としては、以前より試作している評価用の素子のプロセス不良をすみやかに解決し、試作したデバイスについてのフーリエ赤外分光計による測定を行い、THz放射特性の評価を行うとともに、グラフェンチャネル層についてのキャリア輸送特性を物性パラメータとしてプラズモン共鳴・超放射現象をモデル化し、グラフェンTHzプラズモニックレーザーの設計指針の構築を進めるというものであった。試作プロセスについては解決には至らず、作製したデバイスについての測定結果からプラズモン共鳴および超放射現象のモデル作成には至らなかった。年度内のプロセス不良解決が困難を極めたため、数値解析の点から高効率THzレーザー発振についての検討を進めた。グラフェンチャネル中のキャリアの反転分布とバンド間遷移から得られる光子放出によるTHz光利得は、単層グラフェンの吸光率が2.3%であることにより量子力学的に限界がある。動作温度を上げ、THz波放射強度を上げるためには、THzの利得と共振器のQ値をさらに高める必要がある。そのためには超放射現象やプラズモン不安定性を促進するメタ表面構造や、プラズモンや光子による共鳴トンネリングを促進するプラズモニックなファンデルワールスヘテロ構造が有望であり、我々はGL間共鳴トンネリングをカスケードし、THz QCLとして動作する多層DGLデバイス構造を検討している。この構造についての数値解析を行った結果、G-FETや単層DGL構造と比較して、THzレーザーの発振効率が桁違いに向上することを示した。室温で動作する電流注入型の集積型THzレーザーの実現に向けて有望な道筋を開くものである。
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