研究課題/領域番号 |
17K14665
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 卓也 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (70793800)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 熱輻射制御 / フォトニック結晶 / GaN / 量子井戸 |
研究実績の概要 |
本研究では、量子井戸のサブバンド間遷移とフォトニック結晶を利用して熱輻射スペクトルを制御することで、所望の赤外線波長のみで狭帯域に発光し、発光波長を広範囲に変化させられる、波長可変型狭帯域熱輻射光源を開発することを目的としている。 本年度は、波長3-5um帯の高出力な狭帯域熱輻射光源の実現を目指し、GaN/AlGaN量子井戸を材料とした狭帯域熱輻射光源の作製プロセスの確立とその評価を行った。はじめに、Si(111)基板上に成長したGaN/AlGaN量子井戸を利用した薄膜型フォトニック結晶光源の作製プロセスを確立し、波長4umにおいてQ値90以上に相当する狭帯域熱輻射スペクトルを実現した。また、作製光源を温度700℃で2時間加熱してもスペクトルが変化しないことを確認し、GaN/AlGaN熱輻射光源の耐高温性を実証した。さらに、上記の薄膜型光源の機械的脆弱性を克服するため、サファイア基板上フォトニック結晶光源の作製プロセスの開発も行った。その結果、3.4mm×3.4mmという大面積光源の作製に成功し、サファイア基板の長波長域での熱輻射損失は生じるものの、上記の薄膜型光源と比べて出力を10倍以上に向上することに成功した。 また、次年度以降に実現を目指す波長切替可能な狭帯域熱輻射光源の開発に向けて、電圧制御型GaN/AlGaNフォトニック結晶光源の設計も行った。具体的にはGaN/AlGaN量子井戸をpnダイオードの内部に導入し、量子井戸の層数とドーピング密度を調整することで、サブバンド間吸収および熱輻射強度の電圧変調動作が可能であることを数値計算により確認した。また、フォトニック結晶の格子定数と厚さを同時に調整すると、フォトニック結晶の基本モードと高次モードの共振波長が独立に制御可能となり、単一発光面から離れた複数波長の熱輻射ピークが取り出せることを、数値計算により明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の通り、本年度は、GaN/AlGaN量子井戸を材料としたフォトニック結晶に基づく狭帯域熱輻射光源の作製・評価と、電圧印加による波長制御のための光源設計を行った。 前者に関しては、これまで研究代表者が開発を行ってきたGaAs/AlGaAs狭帯域熱輻射光源では実現できなかった、波長3-5um帯における狭帯域な熱輻射ピークを実現し、その安定な高温動作を実証することができた。本成果をまとめた論文は、2本の査読付き学術雑誌に掲載された。また、GaN/AlGaN量子井戸を材料としたフォトニック結晶光源の作製プロセスに関して、Si基板上に量子井戸を成長したのち最終的にSi基板を除去して薄膜化する手法と、サファイア基板上に量子井戸を成長し、基板をそのまま熱輻射光源として利用する手法の2種類の手法を確立することができた。前者は後者に比べて不要な熱輻射損失が小さいという利点を有するが、大面積光源を作製する際は後者のプロセスが適しているため、今後の研究においては、目的に合わせて、2種類の作製プロセスを使い分ける予定である。 後者に関しては、次年度以降に波長切替可能な熱輻射光源を実証するための準備として検討を行った。量子井戸ウエハ構造・フォトニック結晶構造の具体的な設計を行った結果、GaN/AlGaNフォトニック結晶においても印加電圧による輻射強度の変調動作が実現可能であることが明らかとなったため、次年度以降、設計構造の作製および電圧変調動作の実証を目指す。また、単一発光面から複数波長を切替可能な熱輻射光源に関しても、フォトニック結晶の具体的な設計が完了したため、次年度以降にその実証を目指す予定である。 以上の研究の進捗は、当初の研究実施計画に沿ったものであり、本研究課題は順調に進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、はじめに、波長3-5um帯で動作するGaN/AlGaNフォトニック結晶熱輻射光源に関して、電圧制御による熱輻射変調動作の実証に向けた光源作製・評価を行う。電圧制御のための光源作製には、前述した通り、GaN/AlGaN量子井戸をpnダイオードの内部に導入したウエハを用いる。まず室温において、上記ウエハの電流電圧特性およびサブバンド間吸収の評価を行い、電圧制御による吸収変調が可能であることを確認する。その後、高温でも使用可能なp-GaNおよびn-GaNのオーミック電極の形成手法について検討を行い、今年度に設計を行った電圧制御用フォトニック結晶構造の作製プロセスの確立を目指す。作製プロセスの確立が順調に進めば、400℃以上に加熱した状態で熱輻射スペクトルの評価を行い、電圧印加による熱輻射強度の変調動作の実証を目指す。 また、上記のGaN/AlGaN熱輻射光源の開発と並行して、単一発光面から複数波長の熱輻射ピークを切替可能な光源の開発に関しても実験的な検討を開始する。まずは、電圧制御用光源の作製プロセスが既に確立されている、GaAs/AlGaAsフォトニック結晶光源による波長切替動作の実現を目指す。具体的には、サブバンド間遷移波長の異なる2つの量子井戸を順に積層したウエハを用意し、そこに格子定数と厚さを適切に調整したフォトニック結晶構造を導入することで、目的の2波長で狭帯域な熱輻射ピークが得られることを確認する。次に、上記の2つの量子井戸をそれぞれ異なるpnダイオードの内部に導入し、各量子井戸の電子密度を独立に制御することで、単一発光面からの複数波長切替動作の実証を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予算執行計画では、今年度の後半にGaN/AlGaNフォトニック結晶熱輻射光源を作製するための材料となるGaN/AlGaN量子井戸ウエハを追加購入する予定であったが、同ウエハの製造会社におけるMOCVD装置の成長スケジュールに空きがなく、今年度末の発注を見送ったため、次年度使用額が発生した。これに関しては、来年度の前半に同ウエハの発注を行い使用する予定である。なお、翌年度分として請求した助成金に関しては、当初の予定通り、熱輻射スペクトルの電圧変調動作の実証を行う測定系を構築するための光学部品の購入に使用する予定である。また、来年度は、海外で開催される国際学会をはじめとして、多くの学会発表を行う予定であり、助成金の3割程度を旅費としても使用する予定である。
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