研究課題/領域番号 |
17K14675
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
服部 香里 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (10624843)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 単一光子検出器 / 超伝導転移端センサ / 多素子読み出し / イメージング / 微弱光 |
研究実績の概要 |
超伝導検出器を用いた単一光子検出器を多素子化・アレイ化し、超高感度かつ分光可能な大型カメラを実現する多素子読み出しを開発する。超伝導転移端センサは、光子を高い効率(> 98%)で検出できる一方、応答が速い(時定数< 1us)ために多素子を読み出すのが困難であった。本研究では、この高速応答を逆手に取る。光子による信号の立ち上がりのみをフィルタによって取り出す、これまでにない方式の読み出しを開発する。この方式では、超伝導転移端センサーでは不可能と考えられてきた二次元読み出しを実現できる可能性がある。 2018年度は主にフィルタの設計・試作・性能評価を行なった。2017年度に回路シミュレーションを行い、LCRフィルタ(インダクター、抵抗、コンデンサからなるフィルタ)を用いることに決定した。2018年度は、シミュレーションから得られた静電容量、抵抗およびインダクタンスを提供する回路素子の選定を行なった。極低温(4K)で性能評価を行い、期待通りの性能が得られることを確認した。 本研究では10MHz前後の信号を読み出すため、通常の極低温実験に用いるケーブルでは読み出すことが難しいことが判明した。そこで、極低温で動作する超伝導同軸ケーブルを導入し、超伝導転移端センサーからの高速信号を直接読み出すことに成功した。来年度は同軸ケーブルを用いて、フィルタからの信号を読み出す予定である。 本研究では可視光を用いてセンサーの読み出し試験を行う予定である。しかし、超伝導転移端センサーについては、各研究グループによって近赤外域における光子の応答は詳細に調べられていたが、可視域での性能評価の例はほぼなかった。そこで、近赤外から可視域まで詳細に性能評価を行い、センサーの応答特性に関する知見を得た。この結果から、本研究で開発中の新しい読み出しでは、可視光の信号としてどのようなものが得られるかわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はフィルタの研究に注力した。フィルタの評価系を制作し、市販のコンデンサおよび抵抗を液体ヘリウム温度(4K)まで冷やし、性能評価を行なった。さまざまな市販品を試験し、極低温においても正しく動作するパーツを確保した。インダクタンスについては、PCボード上のトレースで実現することを2017年度に決定した。2018年度は、実際にPCボードを設計・試作し、必要なインダクタンスを実現・コントロールできることを4Kで示した。一方、超伝導転移端センサーとの統合試験については、冷凍機の準備状況の遅れから来年度に行うことにした。一方で、本研究の重要な要素である高速信号の読み出しに取り組むことができ、超伝導同軸ケーブルの導入によって10MHz程度の高速信号を正確に読みだせることを実証した。 本研究では可視光検出をターゲットとしている。しかしながら、世界的にみても、超伝導センサーにおける可視光検出の研究がほぼ行われてこなかった。そこで、センサーの可視光の応答を詳細に評価し重要な知見が得られた。このように、2018年度は本研究に付随する重要な課題を発見・解決することができた。
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今後の研究の推進方策 |
TES検出器との統合試験を行う。まずは1素子とフィルタを接続し、既存の読み出し回路で得られる信号と、フィルタを透過する信号を比較する。検証するべき項目は(1)TES検出器が安定に動作するか(2)可視域の光子を入れた場合に十分な振幅の信号が得られるかの二点である。もし信号の波高が十分でない場合、紫外域の光子を用いて試験を行う。1素子で動作実証した後、4素子で動作試験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
LCフィルタの要素のうち、インダクターを微細加工技術を用いて試作する予定であったが、回路シミュレーションの結果、作成する必要がなくなったため、その分の金額が差額として生じた。繰り越した研究費は多チャンネル読み出しのため消耗品費に充てる予定。
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