研究課題/領域番号 |
17K14676
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
高橋 礼 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究員 (40650429)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フーリエ変換赤外分光 / FT-IR / 熱光学効果 / シリコンフォトニクス |
研究実績の概要 |
近~中赤外光域は分子の官能基における伸縮や変角振動が光エネルギーと一致するため,THz帯と並んで古くから「指紋スペクトル帯」と呼ばれる.測定対象物の透過もしくは反射光の赤外スペクトルを照査することで分子の定性および定量分析が可能である.スペクトル分析法における現在の主流は非分散型のフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)である.一般的なFT-IR装置はマイケルソン干渉計より構成され,片アームの光路長可変ミラーにより得られたインターフェログラムを高速フーリエ変換(FFT)することによって高分解能および高S/N比の分光を可能にする. 本研究提案ではシリコン(Si)導波路型平面光波回路によりマッハツェンダ干渉計への置き換えを図る.当初提案では,p-i-n構造が形成されたSiリブ導波路内へキャリア注入することで両アーム間に自由調整可能な光路差を持たせる計画であった.しかし,熱光学効果の活用により十分な遅延長を得られること,さらには屈折率変化の非線形性がキャリアプラズマ分散効果と比較して小さいことなどから,動作原理の最適化および改善を図った. 続いて,本年度後半にかけて素子設計および実験環境の構築に注力した.数値計算およびサイズを意識した設計を行った結果,単一素子あたりのサイズは目標である1x1cm2を大幅に下回ることが出来た(約8.8mm2).また,分割抵抗を採用することで印加電圧を低減し,測定装置の限界を緩和した素子設計を試みた.これらアイデアを具現化した素子の作製は昨年末に完了し,狭線幅波長可変レーザおよび広帯域SLD光源を用いてインターフェログラムを取得した.FFTによって分解能を評価した結果,加熱電力3.49W(印加電圧35V)において,最高周波数分解能25cm-1を達成できることが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
具体的な数値計算の遂行および最新の研究報告を参照した結果,当初の提案を改善する形でキャリアプラズマ分散効果ではなく,熱光学効果を用いて光路差変調を行った.提案書に記載した材料分析および環境計測への展開には一部及ばないものの,光通信用のスペクトルモニターなどの用途では十分な性能が得られている. 当初の計画通り,初年度中にデバイス設計および作製に取り掛かり,分光評価まで完了していることから,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本提案の最大目標である分光器としたの基本動作実証には成功しているが,分解能および分光効率の改善には引き続き下記項目を検討している. 1.「電極配線パターンの改良」初回試作では,7ループ折返し導波路に対してベタ電極を配置することで加熱している.効率的に導波路を加熱するためには,導波路直上にのみ形成する断面構造が望しく,次回試作にて改良予定である. 2.「電極材料の変更および抵抗率の向上」当初検討していたTiNではなく,Taを電極材料として用いたことから抵抗率が減少した.電極配線パターンに影響に伴い,過剰な加熱電力を要することで電源出力の上限に至る問題があった.今後,電極配線設計に適した抵抗体材料に切り替える予定である. 3.「長波長分光への対応」近~中赤外光領域の中でも,波長2-3um帯には多くの分子の振動/回転による吸収ピークが存在するため,長波動作化が欠かせない.従って,導波路コアの拡張および多モード干渉カプラの再設計を行う必要がある.また,本波長帯における超広帯域ファイバ出力光源や受光器など実験環境を再整備する.
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