周波数領域におけるスペクトル解析はもっとも基礎的な光計測手段のひとつである.例として,光通信分野では損失や変調帯域,分散,伝送路上の信号対雑音比を含む数値を得られるほか,材料科学や環境計測の分野では分子の回転および伸縮振動に由来する吸収ピークを評価できる.既存の光スペクトラムアナライザは分散型/フーリエ変換型に関わらず,回転動作や前後移動を伴う機械式であるゆえ,空間光学系によるシステム構成が前提であった.本研究提案ではシリコン(Si)フォトニクス技術による導波路型平面光波回路を活用する. 可動部品の省略および小型化を目的としたSiの熱光学効果(TO)によるフーリエ変換型オンチップスペクトラムアナライザを提案し,既存のマイケルソン干渉計に対してTO変調効果を有する可変遅延型のマッハツェンダ干渉計に置き換えることで光路長変調を実現した.取得した自己相関干渉波形(インターフェログラム)の離散フーリエ変換(DFT)により所望のスペクトル波形が与えられる.Siフォトニックプラットフォーム上に形成された素子は高抵抗Taヒーターと干渉計から構成され,そのサイズはわずか0.88mm2まで縮小できた. スペクトル分解能とSNR依存性を評価した結果,加熱電力1.69Wにおいて,20dBを越えるSNRおよび51cm-1のスペクトル分解能が得られた.加熱電力を3W程度まで上げることで25cm-1のスペクトル分解能を達成できた一方,アーム間の熱干渉効果による出力インターフェログラムの非線形性が観測された.導波路の長尺化によりこれらの現象を抑制できることから,産総研スーパークリーンルームの活用を前提とした片アーム20cmの超高密度集積された干渉計の設計を終えた.本研究事業終了後においても,非線形性改善およびスペクトル分解能向上へむけた研究に取り組む.
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