研究課題
本課題ではMEMS振動子の同期現象による多層チップクロック配送遅延の低減のための技術確立を目指した。これは、生物が雑音を積極的に情報処理に利用することに倣い、雑音を利用する情報処理機構の開拓が、半導体産業の現状を打破する新たなアプローチの一つになると考えているためである。そこで、非線形振動子が雑音を利用して同期する「雑音誘起位相同期現象」に着目した。例えば、雑音で同期したクロック振動子群が、センサ群や複数の独立した回路間の協調した情報処理を可能にすると考えられる。そこで、MEMS振動子と同等の等価回路で表され、機械振動をする水晶振動子を用いて、同期現象を起こすために必要な要素技術の開拓を行ない、論文発表を行った。雑音を利用した、相互作用のない水晶振動子群の同期現象や、結合同期における振動子の振る舞いを共振周波数の特性から解析を行った。MEMS振動子へこれらの知見を転用するためにMEMS実装を試みたが、近年の半導体技術の進歩により、汎用MEMS振動子が安価で手に入るようになった。今後はこれを用いたMEMS振動子の同期技術の構築へと移行することができると考える。また、LC発振回路や、リングオシレータなどの従来の電子回路に対してこれらの技術を適用することにより、物理的に離れた回路同士が、一つのクロック信号を元に同期処理を行うシステムが構築可能になると考えられる。これらの応用を検討し、環境雑音下における複数の振動子の同期現象を解析し、ゆらぎを利用する振動子による新規情報処理システム創出への基礎を構築できたと考える。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件)
Journal of Circuits, Systems and Computers
巻: 29 ページ: 2050026~2050026
https://doi.org/10.1142/S0218126620500267