研究課題/領域番号 |
17K14695
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研究機関 | 岐阜工業高等専門学校 |
研究代表者 |
黒山 喬允 岐阜工業高等専門学校, その他部局等, 助教 (40781737)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 音響キャビテーションノイズ / 粘度測定 / 周波数スペクトル / サポートベクター回帰 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,音響キャビテーションノイズの周波数スペクトルに基づき,簡便かつ瞬時に粘度と密度の同時計測を実現する手法の原理を確立することである.音響キャビテーションノイズは,強力な超音波によって液中に生じる音響キャビテーションが体積振動することで発生し,その周波数スペクトルは液体の粘度や密度といった物性値に依存して変化することが知られている. 平成29年度は,まず液体の粘度と音響キャビテーションノイズの周波数スペクトルとの関係を明らかにするために,ただ一つの気泡が安定に振動する単一気泡振動の数値解析を行なった.数値解析には単一気泡振動の実験結果と最も一致することが知られているKeller-Miksis方程式を用い,気泡を駆動する超音波の音圧振幅,液体の密度,粘度,表面張力と気泡の初期半径を変化させてこれらのパラメータと気泡振動態様(気泡の半径変化)の関係を検討した.また,気泡の半径変化から,気泡からの放射音(音響キャビテーションノイズに相当)の音圧を求めた.その結果,気泡急収縮後に見られるリバウンド振動と液体の物性値に強い相関があることがわかった.特に,超音波の音圧振幅を気泡振動が強い非線形性を示す最低程度とするとき,液体の粘度が高くなるほどリバウンド振動が抑制されることが明らかとなった.一方で,この駆動条件では液体の密度や気泡の初期半径といったパラメータはリバウンド振動には大きな影響を与えないことがわかった. リバウンド振動は気泡の共振周波数程度の中心周波数を持つため,粘度の増加に伴って気泡からの放射音の共振周波数近傍の帯域の周波数成分が低下する.そこで,この帯域の周波数スペクトルの平均値と粘度の関係をサポートベクター回帰によってモデル化した.その結果,気泡の放射音スペクトルから粘度を推定できるモデルが得られ,提案手法による粘度測定の可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は計画通り,単一気泡振動の数値解析と実験系の構築,音響キャビテーションノイズの計測を行った.単一気泡振動の数値解析の結果,28 kHzの超音波で気泡を駆動する場合,気泡放射音の10次から20次までの高調波成分の平均と2次高調波成分の比をとった高調波歪率は,入射超音波の音圧振幅が特定の値をとるときに最大となることがわかった.この高調波歪率の最大値は概ね粘度のみに依存しているため,この関係を用いて粘度を推定するモデルをサポートベクター回帰によって構築した.その結果,取得した気泡放射音の信号対雑音比が20 dB以上であれば,1 -20(mPa・s)の粘度範囲において0.89 mPas・sの自乗平均平方根誤差で粘度を推定できることを示した.また,数値解析と並行して,単一気泡振動の実験系および通常音響キャビテーションを発生させ音響キャビテーションノイズの計測を行う実験系を作成した.両実験系において,単一気泡振動や音響キャビテーションを発生させる液体の粘度を変化させながら音響キャビテーションノイズを計測し,その周波数スペクトルの解析を行った.当初の予定通り,数値解析による検討を完了しており,実験に着手しデータの取得を開始していることから,本研究は概ね順調に進捗していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度までに数値解析の結果に基づく放射音スペクトルからの粘度推定モデルを構築し,また実験系の構築を完了して音響キャビテーションノイズの測定実験を行っている.平成30年度は,実験によって取得した音響キャビテーションノイズの解析を進め,すでに構築した粘度推定モデルと比較することで,本研究の目的である音響キャビテーションノイズに基づく粘度測定の原理確立を目指す.また,同様の手法を密度の推定モデル構築に適用し,粘度・密度の同時計測を実現する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の経費執行は概ね完了しており,中間年度であるため未使用額を次年度に繰越すこととした.繰越分は平成30年度の消耗品購入に使用する.
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