研究課題/領域番号 |
17K14696
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
井邊 真俊 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (00760191)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ディジタルホログラフィ / インコヒーレントホログラフィ / 熱放射 / 赤外 |
研究実績の概要 |
物体からの熱放射をホログラムとして記録し,再生像を取得する.再生像から物体の温度を求めるためには,再生像の信号値と温度との対応付けが必要である.温度が既知の黒体炉のホログラムを記録・再生し,その再生像を取得することにより実現する. しかし,従来までのインコヒーレントホログラフィの光学系では温度との対応付けはできない.熱放射と温度の関係を示すPlanckの式に基づくと,再生像の信号値以外にも,面積と放射の立体角が必要になる.立体角は再生距離および光学素子や撮像素子の配置位置や仕様で算出できる.しかし,面積の算出は困難である.従来までのインコヒーレント光学系では再生像の横倍率が物体の配置位置に依存して変わるためである.別途その情報を求められれば問題はない.しかし,物体の形が不明な場合や生体や粒子計測といった絶えず運動する物体に対しては適用が困難である. そこで,当初とは計画を変更し,物体の配置位置(再生距離)に依存せずに常に倍率が一定の光学系を新たに提案した.アフォーカル系を導入し,再生像の横倍率が,物体配置ではなく,アフォーカル系を構成するレンズにのみ依存するようにした.ハロゲンランプと積分球から成る光源を用いて実験をおこない,この原理を実証した. その後,この光学系を用いて黒体炉のホログラムの記録・再生実験をおこなった.再生像と温度の関係を対応付けるパラメーターの算出を試みた.しかし,光学系や温度の情報から予想できる値とは異なったパラメーターが得られたことから,その原因を調査した.原因は撮像素子の非線形性とみられた.その影響を補正することにより,予想されたパラメーターの値を得ることができた.以上から,温度との対応付けが可能な見込みが得られた. この黒体炉を用いた温度との対応付けとは別に,近赤外レーザーを用いた放射率の測定の準備も並行しておこなっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,当初とは計画を変更した.まずは,再生像に温度を対応付けるために光学系を新たに設計した.この内容で論文も執筆した.次に,この新しい光学系を用いて,当初の計画にあった黒体炉の温度との対応付けを実施した.こちらはパラメーターの異常値の原因も特定でき,達成できる見込みを得た.当初の計画にあった2つ目の課題である放射率の測定についても,当初の計画どおりに光学系の構築など準備をしている.以上のように,当初の予定外の研究もおこなったが,成果も発表し,かつ,当初の計画を達成できる見込みが得られていることから,おおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き黒体炉を用いた,再生像と温度の対応付けの研究を進め,温度測定の原理実証実験をおこなう.なお,非線形性の主要因は撮像素子と考えられるが,他にも熱放射の吸収による光学素子の透過率などの変化も考えられる.この影響はサーモグラフィを用いて,それら光学素子の温度変化をモニタして評価する.温度上昇が無視できない程度の変化であれば,冷却機構を実装する.具体的には水冷機構やペルチェ素子による冷却を考えている. その後,当初の研究計画どおりに放射率の同時測定や空間光変調器を用いた断層画像計測の研究に着手する. 放射率測定については,まず,熱放射自体の偏光の測定をおこなう.表面が鏡面の試料を対象とし,偏光を測定することにより表面の放射率を推定する.あるいは,レーザーなどの外部光源を用いて試料を照射し,その反射光の偏光を測定する.ただし,この際は,撮像素子に入射する熱放射との分離が課題になる.これは,両者の時間コヒーレンスの差を利用することを考えている.熱放射の時間コヒーレンスはレーザーやSLDに比べ短いので,光学系において自己干渉を実現している干渉計部の片方のミラーを数 mm移動させるだけで,干渉縞は生じない.一方,レーザーはその程度の光路長差は干渉縞形成に問題にならない.これを利用すれば,レーザー光からの寄与と熱放射との寄与を分離できると考えられる. 断層画像計測については,位相ピンホールを利用した半透明体の内部の熱放射測定をおこなう.位相ピンホーこルについては,従来までは外部光源を測定したい箇所に局所的に照明し,その透過光のみを捉えている.しかし,本研究では,その部分からの熱放射を捉えるので,局所的な測定を実施するには,別の方法が必要である.これについては,一度光学系内で空間周波数フィルタリングにより範囲を絞った後,位相ピンホールで取り出すことを考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
最も高額な物品として計上していた空間光変調器が安価に購入できたこと,高速計算用の計算機やソフトウェアを別途入手できたことが主な理由である.これら予算については,当初想定していなかった,光学素子の熱放射吸収による温度上昇を防ぐための品の購入に使用する予定である.
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