研究課題/領域番号 |
17K14701
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 直樹 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (80637752)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 協調制御 / 分散最適化 |
研究実績の概要 |
2020年度は、複数のエージェントから構成されるマルチエージェントシステムにおいて、エージェント間の局所的な情報伝達を介し、マルチエージェントシステム全体としての大域的な目的関数を最適化する分散最適化とウィンドファームシステムへの応用について考察した。特に、2020年度はエージェント間の情報伝達の制約に注目した分散最適化法や目的関数が時間とともに変化する場合の分散オンライン最適化法などを提案した。現実の通信では連続量のデータを送ることはできず、量子化された有限長ビットで行われる。2020年度の研究では、この通信の量子化誤差を考慮した分散最適化アルゴリズムを提案し、エージェントの目的関数が強凸かつ滑らかな場合、最適解へ一次収束することを証明した。また、ターゲットのダイナミクスに不確実性がある場合の追跡制御などの工学的応用では、エージェントの目的関数が時間とともに変化していくことがある。そこで、目的関数が動的に変化する場合における分散オンライン最適化アルゴリズムを提案し、リグレット解析の観点からその収束性について考察した。さらに、不等式制約付き最適化問題のウィンドファームの協調制御への応用や有向グラフ上での分散主双対アルゴリズムの提案、非凸最適化問題に対する分散解法などに関する研究も行った。これらの研究結果は、複数のロボットとオペレータとの協調による高信頼な自律分散制御を実現するための最適化法に関する理論的成果となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度はおおむね順調に研究を進めることができた。2020年度は2019年度までに得られた分散最適化法の結果を基に、エージェント間の通信の量子化誤差を考慮した分散最適化アルゴリズムを導出し、それらの収束性に関する理論的考察を行った。2020年度における研究では、個々のエージェントの目的関数が強凸かつ平滑な場合において、一次収束を達成する分散アルゴリズムを提案した。また、エージェント間の通信が不平衡な有向グラフで表される場合の分散オンラインアルゴリズムを提案し、そのリグレットが劣線形となることを証明した。さらに、不等式制約付き最適化問題について、ウィンドファームの協調制御への応用について検討した。風車のブレードピッチ角の分散協調的な制御のための入力を分散最適化アルゴリズムにより求めることで、ウィンドファーム全体の発電量の調整を考慮した柔軟な運用が行えることを示した。不等式制約付き最適化問題については、不平衡な有向グラフの場合において、既存の多くのアルゴリズムのように出近傍のエージェントに関する情報を用いることなく、入近傍のエージェントに関する情報のみを用いた分散主双対アルゴリズムにより、各エージェントの推定値が最適化へ収束することを証明した。さらに、非凸最適化問題に対する分散劣勾配アルゴリズムを提案し、提案アルゴリズムにより、エージェントの推定値が最適化問題の臨界点へ収束することを示した。2020年度はこれらの成果をもとにした学術論文3本が採録され、国内会議6件の発表、解説記事2件の執筆を行うことができた。以上より、令和2年度はほぼ予定通り遂行されたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、令和2年度までで得られた成果をさらに進展させることで、エージェントのダイナミクスや環境の不確かさを考慮した協調制御や分散最適化に関する基礎理論の研究を遂行する予定である。また、複数ロボットとオペレータとの協働による大規模ネットワークシステムの制御においては、ネットワークを構成するサブシステムの不確かさがシステムの安定性に悪影響を与える恐れがあるため、サブシステムの不確かさを考慮した制御則を実現する必要がある。例えば、ウィンドファームの制御においては、風車のダイナミクスは複雑なものであり、また、風速を完全に予測することは不可能である。令和2年度の研究においても、こうした不確かさをガウス過程として考慮した制御系設計法などを提案したが、今後の研究では、オンラインでデータを取得しながら不確かさを学習するロバストな自律分散制御法を実現する。さらに、カメラセンサネットワークにおけるターゲット追跡への応用などについても検討し、本研究で得られる基礎理論研究の成果の有効性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に投稿予定であった論文誌について、必要な修正を加えて2021年度に投稿することにしたため。また、2020年度に国内会議等で発表予定であった内容についても修正を行う必要があったため。なお、研究計画自体に変更は生じていない。2021年度に投稿予定の論文掲載料や国内会議参加費等に使用予定である。
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