研究課題/領域番号 |
17K14714
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田村 洋 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 助教 (10636434)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 延性亀裂 / 極低サイクル疲労亀裂 / 鋼構造物 / 耐震設計 / 加工硬化層 |
研究実績の概要 |
平成30年度は,前年度に引き続き,微視的形成過程を考慮した地震時の鋼材における表面亀裂発生過程を載荷実験により検討した.実験パラメータは,初期表面状態,鋼種,ひず み履歴,載荷速度,加工硬化層の有無とし,鋼種としては地震時の橋梁鋼部材で損傷が問題となる鋼製橋脚で多用される鋼種として新たにSM490材を対象に加えた.さらに実験供試体についても,より効率的かつ高精度に実験を遂行できるよう形状や計測方法(主に位置同定手法)に改良を加え,多数の実験を遂行できた. その結果,SM490材においても繰返し載荷を受ける鋼材表面において微視的な凹凸が形成され,表面亀裂の発生に何らかの影響を及ぼしている可能性を突き止めることができた.また,地震時を想定した高速載荷による実験から,速度効果の有無で亀裂発生サイクル数が異なることを明らかにすることができた.加工硬化層の有無をパラメータとした実験からも,加工硬化層の存在によって亀裂発生サイクル数が異なること明らかにできた.これらについては,数値シミュレーションも援用しながら今後考察を深めていきたいと考えている. 一方,計測の精度が向上したことで新たな計測上の課題も明らかとなった.計測結果から微視的形状に変化が生じた可能性が考えられる繰返し載荷の初期段階では,計測デバイス固有の画素うねりによって表面の変状を誤検知している疑いが浮上したのである.現在,計測原理の異なるデバイスによる計測を準備しており,まずはこの可能性を明確にすることを優先的に考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要にも書いたように,現在のところ,計測結果から微視的形状に変化が生じた可能性が考えられる繰返し載荷の初期段階では,計測デバイス固有の画素うねりによって表面の変状を誤検知している疑いがあり,この可能性を明らかにすることが今後の論理展開に向けて最も重要となっている.そこで,当初の計画を変更して,小型供試体の数と計測数を増やし,計測の確からしさを裏付けるための追加実験を実施している.そのため,当初計画していた溶接止端部を対象とする実験に着手することができなかった.したがって,現在までの進捗状況としては「やや遅れている。」とした.
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今後の研究の推進方策 |
現時点での研究の進捗状況を踏まて,次の通り検討事項を若干見直す予定である.まず,研究の根幹となる計測の確からしさをより慎重に評価するため,バイス固有の画素うねりによって表面の変状を誤検知している疑いが浮上したのである.現在,計測原理の異なるデバイスによる計測を準備しており,まずはこの可能性を明確にすることを優先的に考えている.そのため,溶接部を対象とした検討は見送り,対象として構造物の母材を中心に絞ることを考えている.一方,当初想定していなかった,載荷速度や加工硬化層の影響について,亀裂発生過程に及ぼす差異が新たに認められた.実構造物における亀裂損傷への耐性を考える際には,これらの因子が重要となる可能性がある.そこで今年度はその理論的な考察にも注力しながら,当初からの研究目標である微視的表面亀裂形成過程の解明による低サイクル疲労亀裂発生予測式の高精度化に取り組みたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画の変更等によりわずかながら残額が生じている.令和元年度の消耗品(防せい材等)の購入費に充てる予定である.
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