研究課題/領域番号 |
17K14744
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
柳沼 秀樹 東京理科大学, 理工学部土木工学科, 講師 (70709485)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 歩行者モデル / 離散選択モデル / マルチスケール / 構造推定 / シミュレーション / HPC |
研究実績の概要 |
本研究は,空間計画の評価を念頭に歩行者の交通行動を精緻に記述するモデルおよびそれを実装したシミュレーションシステムの構築を試みるものである.これにより,駅空間やその周辺通路などの歩行空間のリノベーション計画の事前評価に資することが期待される. 本年度は,目標であった1)マルチスケール型歩行者行動の計量モデルの構築,2)マクロなネットワーク上の混雑およびミクロな歩行者間の相互作用を考慮した構造推定に基づくパラメタ理ゼーション手法の検討,3) 構築したモデルを導入したマイクロシミュレーションシステム内部に導入する並列計算アルゴリズムの検討とプレ実装,の3点について研究を遂行した. 本研究で構築した歩行者モデルは,これまで用いられてきたルールベースのエージェントモデルや物理法則を援用したモデルとは異なり,確率的な誤差を加味した効用概念に基づく選択行動モデル(離散選択モデル)を下敷きとしていること,さらには実際の観測データからパラメータ推定が可能であること等の点が特徴的である.さらに,異なる空間スケールのモデルを統合したアプローチは当該分野では見られず,新たなモデリングの可能性を示している.また,歩行者間に働く相互作用を同定することは既存のパラメータ推定手法では困難であったが,構造推定アプローチを援用することで解決できる可能性を示しており,当該分野における離散選択モデルを用いた計量分析に対しても示唆を与えると思われる.大規模な歩行者シミュレシーションでは計算時間がネックとなるが,本研究ではモデリングの提案に留まらず,計算アルゴリズムの高速化についても言及しており,実務的な観点も視野に入れた研究を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に示したとおり,本年度は大きく3つの点について研究を行った.下記に各検討内容の進捗状況を示す. 1) についてはマクロな経路選択モデル,ミクロな歩行者挙動モデルとする異なるスケールを統一的に扱うモデルを構築した.マクロモデルでは既往研究を精査した結果,経路列挙を必要としない再帰型の離散選択モデルであるRecursive Logitとし,ミクロモデルは選択肢間の相関と歩行者の異質性を考慮したMixed Cross Nested Logitとする歩行者モデルを構築した. 2)では他者の選択(行動)が当該個人の選択(行動)に影響を及ぼす相互作用の効果をより精緻に取り込むために,構造推定アプローチによるパラメータ推定手法について文献調査と性能検証を行った.そこから疑似最尤推定法や最適化問題に基づく方法が存在するが,構築したモデルへの適用性や推定の安定性,計算コストの面から疑似最尤推定法を採用した. 3)では,構築したモデルをシミュレーションシステムに組み込む際の並列計算アルゴリズムの構築を行った.1)で構築したマクロモデルには,大規模な逆行列計算が存在するためGPUによる並列と起終点毎にCPUによる並列を組み合わせたハイブリット並列が適切であることが確認された.一方,ミクロモデルについて抜本的な並列化が困難な構造である可能性が明らかとなり,モデル構造の再考も視野に入れて引き続き高速化の検討を行う必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
次年度では,本年度で構築したモデルの実フィールドでの適用を念頭に,1) 大規模ターミナル駅を対象とした歩行者挙動データの収集,2) 収集したデータを用いたモデルパラメータの推定と再現性の確認,3) シミュレーションシステムの高速化検討の継続と実装,4) 実空間を対象とした各種施策のシミュレーション分析の4点を実施する. 具体的には,1)では実空間で交通量のカウンティング調査を行うが,ビデオ画像やWi-Fiセンサーによる計測についても試行的に導入を行う.なお,すでにWi-Fiセンサーによるプレ計測を実施して居る.2) ではこれまでに構築した歩行者モデルと検討した構造推定手法を用いて,収集したデータからモデルパラメータの推定を行うが,モデルに用いる変数の特定化についても合わせて行う必要がある.3)は前年度の課題も踏まえながら計算アルゴリズムの改良とMPIなどの並列化を試みて,さらないシミュレーションの高速化に取り組む.最後に4)では複数の設計案や異常時(災害時の通行止めや施設の一部閉鎖)でのシナリオを作成して提案手法の妥当性を確認する. なお,上記の1)を実施する上で実際の駅空間で歩行者の調査許可が得られない可能性があることがヒアリング等から示唆されている.その対策として,許可が得られる歩行空間での計測(例えば駅前広場やデッキなど)や学内での実験によるデータ収集や既存のデータの活用を視野に入れて進めたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
意図せずに端数金額が残ってしまった.この金額については次年度の直接経費に組み込むことで処理をしたいと計画している.
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