本研究は,空間計画の評価を念頭に歩行者の交通行動を精緻に記述するモデルならびにそれらを実装したシミュレーションシステムの構築を試みるものである.これにより,大規模ターミナル駅などの歩行空間を対象としたリノべーション計画の事前評価や設計へのフィードバック,安全性の検討等に資することが期待される. 本研究の成果は大きく以下の3点である.1) Wi-Fiパケットセンサを活用した屋内外歩行空間における歩行者行動データの観測・収集方法の構築.2) 観測データと離散選択モデルを統合したマクロ・ミクロ歩行者行動モデルの構築,3) 大規模空間を対象とした歩行者シミュレーションシステム実装と適用. 1点目は,これまでマニュアルカウントによる調査が主流であった歩行者行動データの取得について,歩行者が所有しているスマートフォンから発せられるプローブリクエスト信号に基づくWi-Fiパケットセンサの構築と観測・収集手法を確立した.これにより,長期間かつ大量のデータを安価に歩行者の経路選択データが収集することが可能となった.2点目は歩行者のマクロな経路選択行動とミクロな歩行挙動選択のモデリングを行った.マクロな歩行者経路選択モデルでは,Wi-Fiパケットセンタから得られた経路選択データと離散選択モデルを統合し,観測とモデリングを同時に扱えるモデルを構築した.また,ミクロな歩行者挙動選択モデルでは,歩行者の一歩毎の歩行挙動を他者や空間との相互作用を加味したモデルを構築した.3点目は,構築したマクロ・ミクロな歩行者モデルを実際に計算可能なシミュレーションシステムとして実装した.また,実際の空間計画への適用を念頭に,実務的に許容できる計算パフォーマンスが発揮できるように,CPUおよびGPUによる並列計算を導入した.
|