研究課題/領域番号 |
17K14752
|
研究機関 | 国立保健医療科学院 |
研究代表者 |
三浦 尚之 国立保健医療科学院, その他部局等, 主任研究官 (70770014)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ノロウイルス / ロタウイルス / 懸濁物質 / 表流水 / 胃腸炎 |
研究実績の概要 |
平成29年度は,表流水を取水する国内の浄水場1カ所において原水試料を月に1度の頻度で採取し,感染性胃腸炎の主な原因ウイルスであるノロウイルス及びロタウイルスの汚染レベルや季節変動を調査した。試料を孔径の異なるろ過膜で分画することにより,シルト,砂,藻類,原虫等が含まれる>10 μm懸濁物質フラクション,細菌や粘土等の0.45-10 μm懸濁物質フラクション,及び0.45 μm以下の溶存態フラクションに分けて,それぞれの画分に含まれるノロウイルスGII及びロタウイルスAを定量的に検出した。その結果,感染性胃腸炎の非流行期である6~10月の試料からノロウイルスGIIが散発的に検出され,流行期の11~3月の試料では4 log copies/Lを超える濃度が観測された。検出されたノロウイルスの遺伝子型はGII.4 Sydney 2012が最も多く,続いてGII.2及びGII.17だった。一方,ロタウイルスAは1年を通じて4 log copies/L以上の濃度で検出された。 ノロウイルスGIIは,0.45-10 μm懸濁物質フラクションと溶存態フラクションで,濃度に差は認められなかったが,ロタウイルスA濃度は,溶存態フラクションの方が,>10 μmまたは0.45-10 μm懸濁物質フラクションよりも有意に高かった(P<0.01,対応のあるt検定)。すなわち,ロタウイルスAはノロウイルスGIIと比較して懸濁物質への親和性が低く,表流水中において溶存態として存在する割合が多い可能性が示唆された。また,2017年9月および1月には,表流水を水源とする国内21カ所の浄水場において原水試料を採取し,同様の手法で分析したところ,上記の1カ所の浄水場で観測された結果をサポートする結果が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,以下の3つのタスクに取り組むことで,水道水源に存在する病原ウイルスの種類や汚染レベル,及びそれらの季節変動を明らかにするを目的としている。タスク1:国内複数カ所の浄水場において採水された原水試料中に含まれる多様な病原ウイルスを調査する。タスク2:収集した河川水試料を対象にウイルスが吸着している懸濁物質を推定する。タスク3:河川水中懸濁物質に対するウイルス吸着特性を室内実験により評価する。 平成29年度は,当初の計画通りタスク1及び2の研究を遂行し,国内21箇所の浄水場で採取された原水試料を対象にノロウイルス及びロタウイルスの汚染レベルや季節変動を明らかにした。また,ウイルスが吸着していると考えられる懸濁物質を分画し,ウイルスの種類によって濃度の分布が異なる結果を得た。以上の結果から,今年度は実施計画に沿っておおむね順調に研究を遂行することができたと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
タスク1及び2を継続することでデータを蓄積し,水道水源における病原ウイルス汚染実態及び河川水中懸濁物質への吸着特性について2年間の再現性を確認する。また,タスク2の平成29年度の結果に基づき,タスク3に取り組む。具体的には,タスク2で観測された病原ウイルスの種類によって異なる水中懸濁物質への吸着特性を室内実験により検証する。タスク2で膜面上にトラップされた懸濁物質を超音波処理によって回収し,中性のリン酸緩衝液に再分散させる。そこへ精製したヒト糞便由来のノロウイルスやロタウイルス株を添加し,懸濁物質と相互作用させる。混合液を孔径0.45 μmの膜でろ過することにより未吸着のウイルスを回収・定量し,添加量との差から吸着量を計算する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
検出されたノロウイルス株の遺伝子型同定のためのPCR産物取得にやや時間を要したため,次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金と合わせてシーケンス解析費用として使用する計画である。
|