研究課題/領域番号 |
17K14759
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
櫻井 真人 秋田県立大学, システム科学技術学部, 助教 (60710184)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | RC造耐震壁 / 有開口 / 応力センサ / FEM解析 / 復元力特性 |
研究実績の概要 |
本研究では,地震時において複雑な破壊モードを呈し,構造性能の把握が困難とされているドアや窓などの開口を有する鉄筋コンクリート(RC)造耐震壁部材(以下,有開口耐震壁)に対し,申請者が提案しているせん断強度の定量的構造性能評価手法のさらなる算定精度向上を推し進め,現行の性能評価型設計法改正に資する成果を創出することにより,構造設計者の設計自由度の向上に寄与することを目的としている。具体的検討では,耐震壁試験体に埋め込み可能な超小型応力センサを用いた有開口耐震壁試験体の静的載荷実験を実施し,微小変形領域から部材終局領域における力学的抵抗機構の詳細な推移を解明することで有開口耐震壁の数値解析モデルの確立につなげるものである。 第1年度については,超小型応力センサの開発およびキャリブレーション実験として,直径20mm×60mmの円柱形状の小型センサの実用化を目指した基礎的検証を実施するとともに,有開口耐震壁の応力伝達に基づいた簡易な復元力特性モデルの構築と,開口の違いによる有開口耐震壁の応力伝達の差異が最も顕著となる開口パターンをFEM解析により検討をそれぞれ実施し,翌年度の有開口耐震壁試験体での検証実験につなげるものとする。 第2年度については,上述の検討結果を踏まえ,開口位置を変化させた有開口耐震壁試験体に対し,超小型応力センサを埋め込むことで応力の直接計測を試みる。得られた結果から申請者が提案した有開口耐震壁のせん断強度評価手法および第1年度に提案した復元力特性モデルについての妥当性を検証する。 本年度は上記第1年度にあたり,超小型応力センサの開発およびキャリブレーション実験および有開口耐震壁のコンピュータ等に適用可能な復元力特性モデル化の検討,FEM解析を用いた有開口耐震壁のポストピーク挙動を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超小型応力センサの開発およびキャリブレーション実験として,応力センサを200×200×400mmの角柱試験体を市販製の応力センサー(□20×200mm)とともに埋め込み圧縮試験を実施した。また,既往研究の試験体を参考としたディープビーム試験体に対し,4点曲げ載荷時に形成される圧縮ストラット軸方向に応力センサを埋め込んだ上で載荷実験を行った。いずれの実験においても応力センサの計測状況の有用性を示すものとなった。 また,地震時において複雑な破壊挙動を示す有開口耐震壁に対し,コンピュータ等に適用可能な復元力特性モデルについて,曲げ性能およびせん断性能にそれぞれ分離した上で評価する手法の検討を行った。曲げ性能の評価では開口下部の曲率を実験結果に基いて定義するとともに,せん断性能の評価ではこれまでに提案した有開口耐震壁のせん断強度評価式に基いて算定することで,既往の有開口耐震壁実験結果を高い精度で再現できることを示した。有開口耐震壁の破壊モードに関する詳細検討では,まずFEM解析によって最大耐力以降の実験時挙動を詳細に再現しうるモデル化手法の検討を行った。その結果,壁板のせん断破壊により急激な耐力低下を呈するような破壊モードに対しては再現精度が低下するものの,これまで解析による再現が困難であったおよそR=1/50rad.に至るまで実験時の耐力低下挙動を詳細に再現することが出来た。また,各開口パターンにおける解析結果を最大耐力時および同変形で基準化することで整理し,傾向を検討することを試みた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は【研究実績の概要】で示した第2年度にあたり,提案した有開口耐震壁のせん断強度評価手法および復元力特性モデルについての妥当性を検証するため,有開口耐震壁試験体の静的載荷実験を実施する。実験変数は開口位置および個数とし,現行規基準においてその多くが設計者の工学的判断に委ねられている“包絡開口”を想定した試験体を計画している。試験体には各部位に対し小型応力センサを埋設し,中小地震時に相当する微小変形領域から最大耐力を発揮する大変形領域に至るまで応力の直接計測を試みるとともに,経時的傾向について検討する。得られたデータは現行規基準の“包絡開口”の算定に際し,設計者の設計基礎資料となるようデータ整備を行う。また,センサから得られた応力の経時的変化傾向から応力伝達メカニズムがどのように推移するのかを考察し,申請者の提案式の精度向上につなげるものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
交付決定額の内容を鑑み,本年度は既往研究の結果のとりまとめや数値解析,センサーのキャリブレーション実験に終始することとし,次年度に1体あたり150万円の試験体2体を用いた構造実験を実施することとした。
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