本研究では,地震時の破壊モードが非常に複雑で,定量的な構造性能評価法が未だ確立されていない開口(ドア・窓など)を有する鉄筋コンクリート造耐震壁(以下,有開口耐震壁)を対象に,地震時を想定した部材実験において,壁板各部位ならびに耐震壁脚部の負担応力状況を直接的に計測することを目的としている。 研究の前半では,応力状況を直接的に計測しうる試験体埋設型の超小型センサを開発し,単純な性状の鉄筋ンクリート造角柱および梁試験体に当該センサを実際に埋設し計測を行った。センサから得られた結果をみると概ね各部材の力学的特性を説明しうるものであることを確認した。一方で,既往の研究データの分析やFEM解析による実験シミュレーションによって,センサ埋設の上で有意な結果が得られるような開口配置に関して予備検討を行った。またこれらの検討の副次的な成果として,有開口耐震壁の復元力特性モデル化手法の提案ならびに最大耐力時以降の実験状況との対応を重視したFEMモデル化手法の提案に至った。 以上の成果より研究の後半では,現行設計法上,各開口を包絡させた上で耐力算定を行ういわゆる包絡開口評価の条件に当てはまる有開口耐震壁を対象に静的載荷実験を実施した。本実験のねらいは開口の包絡処理が適用される壁板における実際の応力負担状況を詳細に検討することにある。 実験の結果,現行設計法で包絡開口評価とみなされる耐震壁において,開口間壁板が短い場合には当該部位において他の部材よりも高い応力負担がみられた後にコンクリートのせん断破壊もしくは圧壊により,応力負担が周辺の袖壁に移行していることがわかった。 今後は,同実験に対してFEMによるシミュレーション解析を実施し,解析結果より得られるセンサ埋設位置のコンクリート要素における応力負担状況をさらに精査することで,最終的に包絡開口評価法における有用な適用判別手法等の提案を推めていきたい。
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