本研究の目的は、「荷重速度の違いと繰り返し挙動が木質耐力壁の耐震性能に与える影響を明らかにし、その評価手法を開発すること」である。 初年度に実施した面材壁および壁を構成する接合部を対象とした、静的および動的繰り返し載荷実験により、繰り返し劣化挙動と速度依存性による影響を確認した。繰り返し劣化挙動については、処女載荷から2回目の載荷での耐力低下が顕著であり、3回目以降の影響はそれに比べ小さいことを確認した。速度依存性については、同一変形時の耐力を比べると、動的載荷の耐力が静的載荷の耐力より大きくなることを明らかにした。また、上記の影響を概ね再現できる解析モデルを用いて建物モデルを構築し、建物の損傷状態、地震波によらず、新たに入力される地震波の規模が経験済みの最大地震波の0.75倍以上であれば、建物の応答変位が増大する可能性が高いことを確認した。 2年目には荷重速度の違いにより建物に生じた応力の増減(以下、動的成分)を抽出し、それが壁の変形の大きさと繰返し回数により、どのように推移するか調べた。動的成分-変形の関係は、微小変形範囲では線形に近い挙動を示し、壁が降伏変形に達するあたりから非線形性を示した。 最終年度には、釘接合部および面材壁の繰り返し挙動と速度依存性を再現できる簡易モデルの構築を行った。釘接合部においては、弾性床上の梁理論によって釘の変形モード形状を決定し、木材と釘の非線形性、反力バネに並列接続したダッシュポットを考慮すれば、釘接合部の荷重-すべり量関係を概ね再現できることを確認した。さらに、釘接合部の簡易モデルを釘配列に基づき面材壁の簡易モデルに拡張した。結果として、簡易モデルから得られる面材壁の復元力特性は、静的および動的繰り返し載荷実験結果と概ね一致した。
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