大地震時に繰返し載荷を受ける柱梁接合部の梁端フランジには延性亀裂が形成され、亀裂の進展に伴い梁の耐力が低下する。地震後に鋼構造建物が継続使用できるかを判断するためには、建物の残存耐震性能を迅速に把握する必要がある。既往の研究では、塑性率2.0~4.0の梁を対象に、梁フランジ外表面の亀裂長さより梁の残存耐力を算出する方法を提案した。ここでは、スカラップを有する梁について、フランジ板厚内の亀裂はフランジの外表面から45度の方向に進展するものと仮定し、亀裂の進展による梁有効断面積の変化を考慮し、全塑性状態を仮定して梁の残存耐力を算出した。本研究では、少振幅繰返し載荷実験を受ける梁に対して、梁端部フランジ溶接部の近傍に、10台の定点カメラを設置して亀裂を観測した。フランジ外表面に加え、裏当て金に隠れて観察できない領域を除く両側面及びスカラップ底の亀裂を観察した。繰返し載荷を受ける梁端フランジに亀裂が生じると、引張側フランジの有効断面積が小さくなり、塑性中立軸が断面の圧縮側に移動する。本研究では、梁端有効断面積を亀裂長さから推定し、梁端破断面における内力の釣り合いに基づき、載荷中の亀裂の進展による塑性中立軸の位置を推定する。そして、既往研究と類似したモデルを用いて、観測した亀裂の長さから該当サイクルにおける全塑性状態を仮定した梁の残存耐力をそれぞれ算出し、実験における耐力と比較した。 本研究の提案の方法を用いて、各試験体において、亀裂長さがフランジ全幅の7~8割になるまで、実験値に近い値を示した。その後亀裂長さがフランジフランジ全幅の7~8割以上になると、計算結果と実験値の間に若干の誤差が見られるが、計算値は亀裂の進展に伴う梁端接合部の耐力低下の傾向を概ね捉えられていると言える。
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