平成30年度は,①高層RC造建物の地震応答解析モデルの検証,②初期応力が実大高層RC造建物の短期水平荷重時に及ぼす影響の把握という2つの研究課題に取り組むとともに,2年間にわたる研究の総括を行った。以下に得られた主な研究実績の概要を示す。 (1) E-ディフェンスにて実施された縮尺1/4の縮小20層RC造建物の震動台実験を対象に非線形地震応答解析モデルを構築した。モデル化では,実務設計での利用を見据え,柱をマルチ-スプリングモデル,梁を材端バネモデルとした。梁の付着-すべり挙動のモデル化に課題を残すものの,本モデルにより層間変形角1/100程度までの地震応答を精度良く予測可能である。 (2) 若材齢挙動の寸法依存性を回避するため,縮小20層RC造建物を相似則に基づき実大スケールへ拡張した。加速度応答スペクトル,骨組の損傷状況および全体応答の比較等から,相似則の妥当性を確認するとともに,梁降伏が先行する実大20層RC造建物の作成に成功した。 (3) 平成29年度の研究成果との統合を図り,(2)にて作成した実大建物の柱へクリープ等の初期応力を導入し,プッシュオーバー解析を試みた。その結果,初期応力により,①下層階および中層階の柱端に塑性ヒンジが新たに形成され,②これにより短辺方向上層階における終局限界変形が2倍程度大きくなることを確認した。これは,45°方向載荷時にも影響を及ぼし,③下層階柱の軸縮み差に起因する全体曲げによる付加変形が地震時に誘発されることを確認した。 本研究期間では,提案モデルの適用範囲により,地震時の挙動評価を静的解析に限定したため,初期応力が骨組の動的挙動に及ぼす影響を把握するまでには至らなかった。しかしながら,2年間の研究より得られた知見により,これら初期応力が柱部材の耐力・変形および高層RC造建物の損傷状況に影響を及ぼすことは明らかであるものと考えられる。
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