研究課題/領域番号 |
17K14768
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
倉富 洋 福岡大学, 工学部, 助教 (50709623)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 鉄骨梁 / CLT / 曲げ試験 / 合成梁効果 / エポキシ系接着剤 |
研究実績の概要 |
非住宅建築物である鉄骨造の床材を,従来の鉄筋コンクリートスラブからクロス・ラミネイティド・ティンバー(以下,CLTと略記)と呼ばれる木質材料に置換する試みを実施している。平成30年度では,前年度に実施した鋼と木の押抜きせん断実験による要素試験結果を反映させ,鉄骨梁とCLT床からなる合成梁効果について検討を行なった。 試験体は全4体とし,内訳は,鉄骨上フランジに溶接する頭無しスタッドの径とピッチを変数に選定した合成梁試験体を3体,比較用として純鉄骨梁1体である。合成梁試験体に使用したスタッドは径13mmと19mmであり,ピッチは100mm,200mm,250mmの三種類とした。各試験体とも合成率を設定し,合成率の違いが本合成梁の挙動に及ぼす影響について調べる実験計画とした。共通事項として,試験体全長は4400mm,CLTサイズはスギMx3-3(90mm厚)で幅500mm,鉄骨梁はH-350x175x7x11(SS400)である。載荷方法は等曲げ区間を含む四点曲げ載荷実験とし,一方向繰返し載荷とした。本実験で得られた知見を以下に記す。 (1) 合成率の違いに拘らず,いずれの試験体も同様な荷重-変形関係を示した。純鉄骨梁に対する初期剛性の上昇はおよそ1.2倍,最大曲げ耐力の上昇もおよそ1.2倍ほどであった。 (2) 合成梁のひずみ分布において,合成率の値が小さくなるほど,鉄骨梁上フランジとCLT床下面でのずれが大きく見られた。荷重-変形関係においては明瞭な違いは見られなかったが,ひずみ分布および鉄骨梁とCLT床のずれ挙動に関しては,合成率による違いが見て取れた。 (3) 破壊性状では載荷点付近の鉄骨上フランジの局部座屈が観察されたが,CLT床には亀裂や破壊などの目立った損傷は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度に実施予定としていた鉄骨梁と木質材料であるクロス・ラミネイティド・ティンバー(以下,CLTと略記)の床で構成された合成梁の曲げ実験を実施完了した。当初の予定では5体前後の試験体を計画していたが,費用の観点から純鉄骨梁を含む4体の試験体を製作した。 平成30年度の研究成果より,鉄骨梁とCLT床による合成梁効果を明らかとすることができ,純鉄骨梁よりも初期剛性および最大曲げ耐力ともに1.2倍ほどの上昇が見込まれることを示した。鉄骨梁とCLT床を合成梁とした際の挙動に関するデータがほとんど得られていなかったことを考慮すると,本実験データは重要な資料となるものと推察される。また,合成率の違いによってひずみ分布に差異が見られたことから,本合成梁を設計するうえで適切な合成率が存在するものと考えられる。このことは,平成31年度の合成梁の試験体設計において,合成率の違いによる挙動の影響をより詳細に検討するための基礎資料を得ることができたものと考えている。これらの成果から,平成30年度の達成度として,おおむね順調に進展しているものと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度では鉄骨梁とクロス・ラミネイティド・ティンバー(以下,CLTと略記)床の合成梁として,床の有効幅を500mmと固定し,合成率を39%~77%の範囲で変化させて挙動を調べた。平成31年度では,本合成梁に対して,合成率の違い,床材の有効幅の違いに着目して合成梁効果についてより詳細に検討する予定である。 また,各種合成構造設計指針・同解説(日本建築学会,2010年)に記載されている設計式を準用できるよう,実験値と計算値との対応を検討する。これは,コンクリートスラブと鉄骨梁との合成梁効果について詳細に記された設計式であるが,コンクリートスラブ部分をCLT床の材料特性に置換しても実験値を評価可能かどうかを調べるものである。更に,必要に応じて,平成29年度に実施した要素試験である押抜きせん断実験を実施し,本合成梁の接合部における基礎資料を整備することも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に計画した実験において,試験体数を変更したためである。生じた次年度使用額は平成30年度の試験体製作費に充てる計画である。
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