鋼構造オフィスビル床を木質化するため,本研究課題では木質材料としてクロス・ラミネイティド・ティンバー(以下,CLTと略記)を使用している。2018年度において鉄骨梁とCLT床で構成された合成梁を製作し,四点曲げ載荷実験を実施した。その結果,鉄骨梁に対して,本合成梁は初期剛性および最大曲げ耐力が向上することを明らかとした。 計画当初,2019年度は合成梁の実大実験を実施する予定であった。しかしながら,2018年度の研究成果において,合成梁効果が十分に期待できる知見を得られたことに加え,CLTを取り巻く社会情勢を鑑みると,CLT普及促進のためにはコストを抑えた方策を提示することが急務であるとの判断に至った。そこで,2019年度ではローコスト化を企図したCLTの層構成をパラメータとし,鉄骨梁とCLT床の接合部におけるせん断耐力を調べられる押抜きせん断実験を実施した。 鉄骨梁とCLT床の接合方法は2017年度と同様,頭無しスタッドとエポキシ樹脂による方法である。実験変数にはCLTの層構成を選定し,ラミナ厚には30mm,36mm,45mm厚を使用した。ラミナ45mm厚のCLTを使用する意図は,接着層数を減らしてCLT板そのもののコストダウンを図ることにある。頭無しスタッドは軸径13mmおよび19mmを用い,長さはCLT厚の半分とした。載荷形式は単調載荷と一方向繰返し載荷の二種類とした。 本実験で得られた知見を以下に記す。1) 単調載荷および繰返し載荷における載荷方法が挙動に及ぼす影響はあまり見られなかった。2) 頭無しスタッドがCLTの強軸層にかかる割合が大きくなるほど,降伏せん断耐力および降伏後の耐力が上昇した。3) 本接合の降伏せん断耐力評価式として既存のヨーロッパ型降伏理論式を適用して実験値との比較を行なったところ、降伏モードは実験挙動とよく対応し、概ね実験値に近い評価をした。
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