研究課題/領域番号 |
17K14785
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
関口 達也 中央大学, 理工学部, 助教 (90758369)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 買い物弱者 / 食料品 / アンケート調査 / 移動販売 / 地理情報システム / 地域解析 |
研究実績の概要 |
高島平地域でのアンケート調査が秋の実施に決定したため、前半は埼玉県日高市こま武蔵台地域に着目をした。この地域は東京都市圏の遠郊外部にある戸建住宅団地で、高齢化が進み、小店舗一つのみが地域内に残る。買い物行動調査を含む住民アンケートのデータを共同研究者から提供いただけたこともあり、研究対象として適すると判断した。分析から、地域内には移動手段のない高齢・単身者が店舗の質の十分でない小規模店舗を利用せざるを得ないことで生じる店舗への不満が買い物の不自由に繋がり潜在的買い物弱者の発生に繋がっている構造や、宅配サービスの利用がその不自由を改善する可能性がある事を明らかにした。この成果は日本建築学会の学術論文として掲載が決定した。 高島平地域では調査準備の傍ら、移動販売の利用実態の解析を引き続き進めた。今年度は個別の利用箇所での購入商品の内訳に着目した分析結果を、地理情報システム学会において口頭発表した。更に地域のイベントの中で成果報告と合わせて、住民の買い物の苦労・危険に繋がる都市要素の聞き取りを行い、移動の抵抗要素と推測された広幅員道路や歩道橋に加え、団地周辺の歩行者・自転車・自動車の混在に対する危険等を把握できた。 アンケート調査を11月に実施し950件(回収率約23%)の回答を得た。分析により1)西部の戸建住宅地の住民は、徒歩や自転車で地域中心部の店舗を利用する際のアクセスの悪さに起因する買い物の不自由を有する事、に加え、店舗の質への評価を導入した事で、2)従来は買い物弱者になりにくいとされた自動車利用者も、付近の店舗に駐車場がなく利用しにくい場合、商品に対して十分な満足を得るために、遠方の店舗を選ばざるを得なくなる事でアクセス面での不自由を有する事を新たに明らかにした。また、移動販売は回答者の約30人が利用経験があり、買い物支援事業として好意的な評価を受けている事も把握できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象地域を追加した日高市の事例では、アンケート調査の解析から、潜在的買い物弱者の存在や該当者の特徴、発生要因となりうる地域の買い物環境の把握、そして、改善に貢献しうる買い物弱者対策に対する示唆を得る事が出来た。 また、高島平地域においても、研究上重要であったアンケート調査を実施した。店舗の質の評価を導入した事により、当初から存在を予測していた潜在的買い物弱者とは構造が異なるものの、店舗へのアクセスのみで論じられていた場合には顕在化しにくかった、自動車利用者の抱える買い物の不自由に関する問題を明らかにする事ができ、今後も多くの知見を得られる有用性の高い調査データが得られたと考えられる。また、昨年度の成果と関係して、移動販売事業の需要地点と関係があると考察した都市要素が実際に買い物の際の移動の苦労や危険として認識されている事を住民への聞き取りから明らかにする事ができた。 また、それぞれの成果についても学術論文として雑誌への投稿や口頭発表を積極的に行うとともに、地域イベントでの住民への成果報告や各種調査を通して、研究自体のアウトリーチ活動を行う事も出来たといえる。そのような点で、今年度は多くの成果を残せたと考えられる。しかし、特に高島平地域では速報的な集計・分析を進めている段階であり、調査結果に基づく買い物の課題の全容の把握や問題の解決策の立案に向けては、例えば買い物の問題の有無と食事摂取の関係の分析等、まだ検討の余地が残されている。それらの事を加味して、研究全体としての進捗は順調な段階にあると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、高島平地域におけるアンケートや移動販売事業の解析については、引き続き検討の余地が残されている部分があるので、引き続き解析を進める。具体的には、地域における買い物の不満や不自由が食事摂取面に与えうる影響の検討と、移動販売事業がその改善にもたらす効果をみる。これらは2018年度までに収集したデータに基づき概ね検討可能である。ただし、住民の購買行動や評価原理、また、住民が求める買い物しやすい地域環境の詳細についてはこれらのデータのみ明らかにしきれない部分も存在する可能性がある。これに対しては、2018年度に行われた地域イベントの機会等を利用して、住民への聞き取りやワークショップを計画する事で、情報を補完していくことを考えている。 また、本来はアンケート調査による地域の問題の把握の後、移動販売事業などの買い物弱者支援策の意義や課題の検討を行う予定であったが、アンケート調査実施時期の制約から昨年度と今年度で各項目を検討する順番が前後してしまった。この点には留意し、これらの検討結果を一つの流れに位置づけながら成果をまとめていく。 また、2019年度は最終年度にあたるため、上記で述べた様な分析を遂行しつつ、全体のとりまとめを行っていく必要がある。本研究では、地域特性の異なる日高市と高島平地域の事例を取り上げており、いずれの地域においても、地域の買い物環境と人々の購買行動・評価の関係、地域の課題に対する既存の支援策の効果の検討を行っている。そのため両地域の成果に基づいて、本研究で当初より着目の対象としている潜在的買い物弱者の発生要因や特徴、該当者である事の食品摂取・栄養面での影響について整理するとともに、その問題を解決・改善に導くための具体的方策の立案に資する知見の獲得を行い、研究目的を達成していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、アンケート調査の配布は配達地域指定郵便物による郵送配布を想定していたが、事前に地域への周知を行ったうえでのポスティングに変更したことにより、回収率を下げずに費用を大きく抑えることができた。 また、現段階では既存の表計算ソフトなどによる基本集計・分析を中心としていたため、詳細な解析に必要な各種ソフトウェア等の購入は行わなかった。次年度は、より解析を深めていくうえでこれらのソフトウェアや、結果を論文にまとめて学術誌に投稿する際の費用等が発生する。また、住民への追加の聞き取り調査やワークショップのための費用等も必要になると考えられるため、これらについて予算を執行していく。
|