研究課題/領域番号 |
17K14785
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
関口 達也 金沢大学, 地球社会基盤学系, 助教 (90758369)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 潜在的買い物弱者 / 店舗評価と買い物の不自由 / 食事摂取の多様性 / 移動販売 / GPS / GIS |
研究実績の概要 |
まず,2018年度までに概ね調査・解析を終えていた埼玉県日高市の事例では,日本建築学会の計画系論文集に研究成果が掲載された. 東京都板橋区の高島平地域の事例については,昨年度より引き続き調査・解析を進めた.まず,地域住民の高齢化が進行による住民の移動手段の変化(制限),店舗分布の変化・地域内の偏在化等が複合的な要因となって,食料品の買い物弱者問題が進行している事が調査結果より示された.これを調査速報として都市計画報告集において公表した.さらに,本研究の中核的な分析課題である,1)距離以外の買い物環境評価と買い物の不便・不自由との関係,2)それが人々の食事摂取に与える影響の検証にも着手した.結果として,人々が買い物環境に対して不自由を感じる要因には,距離・交通利便性のみならず,安全性(重視される場合)や商品の品質の評価も含まれる事が示された.しかし,食料品の入手が不自由な買い物環境下にいる事が,直ちに食品摂取へ悪影響を及ぼすわけではなく,特定の交通手段で買い物を行う人々が不自由を感じる場合に買い物頻度の低下をもたらし,十分な量・多様な食料品の入手・摂取を妨げるというメカニズムを明らかにできた. また,移動販売事業が潜在的買い物弱者の問題解決に果たす効果・意義についても引き続き解析を進めた.昨年度までに収集したデータを組み合わせて,その利用場所の特徴や利用者について解析を行い,利用地点の特徴から,店舗までの実距離のみならず,相対的距離や広幅員道路や急傾斜,歩行空間の整備状況等の移動の安全性に関わる都市的な空間要素も移動販売の需要に影響を与える事が示された.前述の潜在的買い物弱者が抱える不自由の要因の一部の解消を事業により実現できる可能性がある.さらに,遠方の店舗を自動車で利用する人々に対しても,移動販売の利用が日常の買い物を補い,店舗利用時の距離の不満を抑制する事が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,前年度までの成果を取りまとめた論文が有査読論文として学会誌に受理された.他にも,今年度の解析結果を都度,速報的に学会・国際会議等で発表し,今後の分析に繋がる示唆を得ることができた. また,板橋区高島平地域の事例では,昨年までに実施した調査データや情報を補完するための住民へのグループインタビューも実施することができ,地域住民の目線からの新たな地域の買い物環境に対する評価の観点を得ることもできた. また,その様な地域住民との交流の中で,昨年度までの成果を報告し,率直な意見を頂戴できたことも今後の研究成果の地域還元の在り方を考えるうえで,重要な示唆となった. そして,昨年度までの調査結果や,上記の今年度新たに入手した情報を組み合わせて,本研究の中核的な分析課題である距離以外の買い物環境評価と買い物の不便・不自由との関係と,それが人々の食事摂取に与える影響についても解析に着手できた.多変量解析等を活用した解析を通して,定量的な根拠に基づき,これまでの買い物弱者の研究分野に新たな評価の観点を提示する事につながる結果が得られた. 以上を総合的に判断して,概ね研究は順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究課題である潜在的買い物弱者の発生要因や,その不満や不自由が食事摂取に与える影響とその対策に関して今年度までに一定の成果を得られたが,ここまでに明らかになった課題は,個々人が最もよく利用する1店舗のみに着目した結果である.個人の店舗の使い分け行動の影響は考慮できていないが,それらを踏まえた検討は,これまでの知見のより精緻化・一般化を可能にすると考えている.一年間の研究機関の延長を許可いただいたので,今後はその様な本年度までの研究成果の深化・総合化を図りつつ,対象地域での成果報告についても積極的に行っていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の支出を予定していた、グループインタビュー(ワークショップ)等の開催費など、一部費用を、別途いただいていた奨学寄附金から支出したため。 次年度以降は、複数店舗の利用の使い分けの実態を問追加のアンケート調査や、本年までに収集したアンケートデータの結果と突き合わせるための客観的情報を表す空間データ等の購入に充てる予定である。
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