本研究は、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、当初計画していた期間から2年間の期間延長を受けた。この間、研究のための海外渡航ができず、松ノ井覚治のニューヨーク滞在期間中の活動については、予定していたアメリカの資料所蔵期間への訪問調査は叶わなかったが、アメリカの諸機関でオンラインアーカイブの公開が拡大したこともあり、オンラインデータベースの活用と現地からの資料の取り寄せを中心に調査を進めることができた。松ノ井がコロンビア大学時代に参加したボザール・インスティテュート・オブ・デザイン(BAID)の公開課題についても、課題文や他の受賞者案を発掘して比較検討した。 一方で、ご遺族からいくつかの資料を提供いただくことができた。これにより、学生時代、ニューヨーク時代、ヴォーリズ建築事務所時代、松ノ井建築事務所時代を中心に、新たな事実を発掘することができた。なかでも世界恐慌の煽りを受けて松ノ井がニューヨークで所属していたモレル・スミス建築事務所を辞して帰国し、ヴォーリズ建築事務所に所属するに至る経緯について、日米の事務所長からそれぞれ受け取っていた書簡から具体的にすることができた。また、モレル・スミス事務所を辞する際に受け取った紹介状の内容からは、松ノ井が同事務所で果たした役割と寄せられた信頼の厚さが明らかになった。 京都工芸繊維大学美術工芸資料館所蔵の松ノ井の旧蔵書の調査からは、松ノ井が歴史様式の建築意匠を習得するに際して参考にした内容が把握できた。これらの蔵書の多くは、L・G・チェーピンとその家族から毎年のクリスマスに贈られたものであったことも明らかになった。松ノ井は渡米後3年間、チェーピン家に仮寓していたが、その後も交流を続き、帰国後も関係は続いた。 これまでの成果(新たに作成した松ノ井覚治の活動年表も含む)と資料をまとめ、冊子『松ノ井覚治の建築ドローイング』(日英併記)を作成した。
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