本研究は、近世における神社建築の復古像の実態を解明しようとするものである。初年度にあたる今年度は以下の作業を行った。 1.近世の神社について、先行研究および関連資料の収集と分析をすすめた。復古的に建てられた神社の事例について、近世社寺調査報告書等から収集しようと試みたが、近世後期で装飾の少ないものは調査対象から外される傾向にあったようで、目ぼしい成果は得られなかった。ただし、復古的とされる要素は抽出することができ、今後の調査の手がかりになると期待される。また、出雲および和泉地域の神社建築の遺構の実地調査を行った。 2.近世における神社本殿の形式概念のあり方について検討を行った。先行研究を収集したほか、東京大学・都立中央図書館などで資料調査を行い、得られた資料をもとに、近世に神社建築がどのような理念のもとで建てられていたかを考察した。近世初頭と、幕末~明治期の様相について、いくらかの成果が得られたので、来年度は研究報告あるいは論文としてまとめていく予定である。 3.これまでの研究成果について、研究論文「高橋宗直による内裏考証について」(『建築の歴史・様式・社会』所収)、研究報告「Knowledge of Japanese Architecture of the Past in the Edo and Early Meiji Periods」などとして発表した。前者は近世における内裏の復元考証についての論考であるが、思想・手法・人的つながりなどのさまざまな面において、同時代における神社の復古の問題とも関わってくるものと考えている。後者は、内裏・神社の復古といった問題を含め、近世・近代における過去の建築への関心がいかなるものであったか、考察をまとめたものである。
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