本研究は、近世における神社建築の復古像の実態を解明しようとするものである。当初は3年間の計画であったが、調査の事情により研究期間を1年延長した。4年目にあたる今年度は以下の作業を行った。 1.近世において神明造がどのように認識されていたか、という点に関して資料等による検討を進めた。近世において伊勢神宮の社殿は素朴で古風な形式としてしばしば参照されていたが、そのまま模倣して造営することは憚るものとされていたこと、神明造社殿の造営はそのタブーに触れかねないセンシティブな問題であったことが確認できた。 2.これまでの成果をA「神明造の差異と反復」(東北歴史博物館展覧会図録『伝わるかたち/伝えるわざ―伝達と変容の日本建築』所収)、B「日本建築における過去の継承と復古」(同所収)、C「『黒田宗信伝来文書』「上棟之巻」の翻刻と紹介」(共著、『竹中大工道具館研究紀要』所収)としてまとめた。Bでは日本建築における「復古」という営為の意味について一応の見通しを示した。Cで翻刻した資料には、大工は神明造社殿をつくれる必要があるが、伊勢神宮のことは他では真似してはならない、という指摘がある。これは、上記1で述べた伊勢神宮の建築と神明造という社殿形式のギャップを端的に示すものである。
近世の神社建築について知見を深め、とりわけ本殿形式の分類の意味についてさまざまな成果が得られた一方で、研究の主題であった「近世における神社建築の復古像」については、断片的な情報の集積にとどまって十分な知見を提示することができなかった。本研究の成果を足掛かりとして、今後も引き続きこの課題に取り組んでいくこととする。
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