研究課題/領域番号 |
17K14797
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小島 陽子 日本大学, 理工学部, 研究員 (30548095)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | クメール / アンコール / 排水システム / 排水路 / 排水能力 / 基壇沈下 |
研究実績の概要 |
本研究は、カンボジアを中心に展開しているアンコール王朝時代の宗教建築の雨水排水システムに焦点をあて、雨水排水が遺構へ与える影響を検証することで、今後の遺構保存のための技術的課題に着目することの重要性を示すことを目的として進めたものである。研究実績の概要を以下に示す。
1、平成30年度は、当初の計画通り、カンボジアのAPSARA Authorityの調査協力を得て、アンコール地域に位置するヒンドゥー教寺院イースト・メボン(952年創建)の調査とプレ・ループ寺院(961年創建)の補足調査を実施した。 2、プレ・ループ寺院では、計16本の排水路が設けられ、伽藍正面の東側と背面の西側では、流出口の管路形状が異なり、それぞれ水の流れ方を意識した計画と、多くの雨水を合理的に排出する計画の違いが明らかになった。また、伽藍の中心と周辺では、排水路の流出口の設置高さと、そこに至る基壇内部の溝の形状が異なり、それぞれ排水を促す計画と、水の滞留を促す計画の違いが明らかになった。 3、プレ・ループ寺院の各排水路の許容流量と雨水流出量を算出し、両者を比較することで、排水能力の検討を行った。各排水路の許容流量は、東側より西側が大きく、排水能力を満たす排水路は、伽藍中心の西側の2本のみであることが明らかになった。全体では、豪雨時に冠水するが、冠水量は伽藍中心より周辺の方がはるかに大きいことが明らかになった。 4、プレ・ループ寺院の各排水路の排水能力と基壇の沈下の関連について検討を行った。基壇沈下の要因は、多様で複合的に作用すると考えられるが、同じ条件化にある複数の祠堂の基壇で、線対称の位置に同様の沈下がみられ、その主要因として、前面に位置する排水路の排水能力不足が関連することが明らかになった。伽藍全体では、許容流量が小さい排水路の付近では、基壇の沈下が大きくなることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度の当初計画では、イースト・メボン寺院の排水路の測量と、段台基壇及び建物の基壇のレベル測量を完了する予定であった。 このうち、建物基壇のレベル測量は計画通り完了した。しかし、段台基壇の床面には、多量の土砂が堆積しており、APSARA Authorityの協力による測量箇所のクリアランス作業に多くの時間を要した。このため、段台基壇の一部と排水路の測量を完了することができなかった。 最終年度に、イースト・メボン寺院における補足調査を行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、平成30年度に引き続き、カンボジアのAPSARA Authorityに協力をいただき、アンコール地域に位置するヒンドゥー教寺院イースト・メボン(952年創建)における排水システムの調査研究を継続する。調査研究項目は次の通りである。 1、伽藍に配されている16本の排水路について、光波測定器を用いて管路内の実測調査を行い、各排水路の断面図を作成し、排水能力について検討を行う。 2、段台基壇の床面及び建物の基壇上面のレベルについて,デジタルオートレベルを用いて測量を行い、各基壇上面の高低差分布図を作成し、沈下状況の検討を行う。 3、各排水路の排水能力と段台基壇及びその上の建物基壇の沈下状況の関係について検討を行う。 4、段台基壇床面の水勾配を復元的に検証し、伽藍全体の排水計画の検討を行う。また、今後、排水能力を確保する上での技術的な問題とその解決策についても併せて検討を進める。これらの研究成果は随時、発表・公開を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、所属先の変更により、当初計画で予定していた時期に現地調査を行うことができなかった。このため、次年度使用額が生じた。 これは、次年度に実施する2回の現地調査に係る海外旅費、論文発表のための国内旅費、論文掲載料、研究協力者への謝金等に使用する。
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