研究課題/領域番号 |
17K14800
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三浦 大介 東北大学, 工学研究科, 助教 (90708455)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ギルバート緩和 / 結晶磁気異方性 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
本研究では,有限温度Tにおける結晶磁気異方性定数Ku(T)とギルバート緩和定数α(T)を統一的立場から同時に記述し,両者の温度特性の起源と相関を明らかにすることを目指す.更に,定量評価のための計算手法の構築を目指す.平成29年度は,局在磁性体を想定してKu(T)とα(T)に関する理論研究を推進した.単純な磁気構造を持つ局在磁性体のKu(T)は現象論的にCallen-Callen則(CC則)によく従うが,希土類磁石のような複雑な磁気構造を持つ物質については従うとは限らない.このような物質については,配位子場理論に基づいた微視的理論を用いることでKu(T)がうまく記述できることが知られている.そこで我々は,改めてAkulov-Zenerの現象論に立ち返ってCC則を見直し,既存のCC則を拡張した(以下,拡張CC則).これによると,局在磁性体でありながら従来のCC則が成り立たない原因は,それが大きな高次の異方性定数を有していることにあることが明らかとなった.また,実際のネオジム磁石のKu(T)を拡張CC則でよく記述できることを確認した.結果として,本年度の研究により局在磁性体のKu(T)の現象論と微視的理論の両方を整備することができた(ただし,今後の研究の推進方策で述べるように拡張CC則については更なる改良が必要な場合がある).一方,局在磁性体のα(T)については現象論・微視的理論の両方が確立されていない.そのため,基礎的理解を得るために,既にKu(T)の記述で成功している配位子場理論を用いることで希土類磁石のα(T)を記述することを試みた.その結果,これまで知られていた遷移金属合金のような遍歴磁性体が示すα(T)の振る舞いとは全く異なる挙動を示すことを確認した.これは,希土類イオンが(連続的なバンドエネルギーと異なり)離散準位を持っていることに起因していることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の目標の1つであるKu(T)とα(T)の定性的理解を得ることができた.特に,Ku(T)については現象論として拡張Callen-Callen則を導くことができた.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に得られたKu(T)に関する拡張Callen-Callen則は磁化構造のノンコリニア性が無視できない場合は修正が必要であるため,次年度は更なる精緻化を行う予定である.希土類磁石のα(T)については実験研究が少なく拠り所に乏しいため,実験をサポートできるような現象論の提供も検討する.また,α(T)の支配因子を議論するためには,定量評価が要求されるため,第一原理からこれを記述することも検討課題とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 共有の計算機資源に予期せぬ空きが生じ,当初の購入予定の計算機が不要となった.一方,予定よりも早く結果が出たため,当初予定していなかった国際会議 (MMM) の出張旅費に当てた. (使用計画) 平成30年度は数式処理システム (Mathematica) のアップデートに使用する予定である.
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