研究課題/領域番号 |
17K14801
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
木村 耕治 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20772875)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 蛍光X線ホログラフィー / X線非弾性散乱 / 熱電材料 / ホイスラー化合物 / フォノン |
研究実績の概要 |
本研究では、Fe2VAlホイスラー型熱電材料を対象として、性能向上に寄与する元素ドープの効果を原子レベルで解明することを目的としている。特に、重元素ドープにより熱抵抗が上昇するメカニズムを放射光X線を用いて詳細に調べている。当該年度では、放射光実験で必要となる単結晶育成を行った後、熱伝導を担うフォノンを観測可能なX線非弾性散乱(IXS)及びドーパント周りの局所構造を観測可能な蛍光X線ホログラフィー(XFH)を実施した。 単結晶育成では、目的の組成であるFe2(Ta0.05V0.95)Alに調整したアーク体を作成し、チョクラルスキー法を用いて単結晶を育成した。単結晶の断面には、複数の結晶粒が観察されたが、各粒の大きさが数mm程度であり、放射光実験を行うのに十分なサイズであることを確認した。 育成した単結晶を放射光施設SPring-8に持ち込み、IXS、XFH実験を実施した。IXS実験は、ノンドープ及びTaドープ試料を対象に実施した。両者の測定結果は類似していたが、精密な解析を行うことでドープ試料においてTaに由来する振動モードが検出できた。Ta由来のモードとV由来のモードの振動数を比較すると、ドーパントであるTaの方がむしろ安定していることが示唆された。XFH実験では、Ta及び置換元のVの蛍光X線ホログラムを記録し、各元素まわりの3次元の原子像を再生した。その結果、TaまわりにおいてVよりも2倍程度強い原子像が観測された。このことは、Ta位置の安定性を示しており、フォノン観測の結果とコンシステントである。 元素ドープによる熱伝導率低減の理解は、従来ドーパントを点欠陥として扱う描像が主であったが、本結果は、周辺原子との結合状態の違いなどより広範囲な情報を考慮する必要があることを示している。今後、より定量的な解析を行い、熱伝導率低減との関連を詳細に検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度で目標としていた、単結晶育成、蛍光X線ホログラフィーによる局所構造観測、X線非弾性散乱によるフォノン観測がいずれも実施することができ、計画通り研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で、不純物としてTaを5%ドープした試料を対象にフォノンの観測と不純物まわりの局所構造の観測を行ってきた。今後は、Taのドープ量を変えて系統的なデータを取得する。また、Tiなどの軽元素をドーパントとして同様の測定を実施し、原子量の違いを検討する予定である。 さらに、得られたデータを詳細に解析するために、理論計算を実施する。ドープした系では、結晶の周期性が破れているため、スーパーセルを用いた計算を検討している。すでに、計算用のマシンや計算ソフトは所有しており、試験的にノンドープ試料のフォノン分散の計算は実施済みである。 本研究で行う理論計算に関して、ノンドープの系では比較的小さなコストで計算が可能であるが、ドープした系では計算コストが高くなる。研究室レベルのマシンでは限界があるため、大型計算機の使用が必要となる可能性がある。すでに、計算を専門とする研究者とも議論をしており、必要に応じて協力を仰ぐ予定である。
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