LEDやディスプレイ用の蛍光体として、セラミックス中に希土類原子をドープした、Ca-α-SiAlON:Eu、YAG:Ceなどの開発が進められており、それらの高性能化のために、蛍光体材料中のドーパント原子の空間分布の解析が重要となっている。HAADF-STEM法ではドーパント原子の直接観察が可能だが、3次元的な空間分布の解析は従来困難であった。 そこで本研究は、収差補正STEMではより大きな収束角を用いることができ、その結果焦点深度が浅くなることを利用し、デフォーカスを細かく変化させながら像を取得し、各原子カラムのコントラスト変化からドーパント侵入深さを解明するスルーフォーカスHAADF-STEM法によるドーパントの空間分布解析を試みた。 本年度は、前年度の課題であった深さ分解能の向上のため、より広い収束角の使用を検討した。像計算によると、電子線の収束半角を大きくするほど深さ分解能が向上し、同時に色収差の影響も大きくなるが、分解能への影響は比較的小さかった。実際に収束角を60mradまで大きくすると、試料ダメージが大きくなり、試料ダメージを軽減した撮影が必要とわかった。 Ca-α-SiAlON:Euに加えて、当初の研究方針であった、YAG:Ce中のCe単原子の空間分布解析を実施した。マルチスライス法による像計算より、ドーパントの原子カラムにCaやYなど他の原子も存在する結晶性材料においては、電子チャネリング挙動が深さ分解能に影響することが明らかとなった。顕微鏡観察においては、YAG:Ceの場合はCeとYの原子番号が近いことから[100]方位からの観察では、42mradの収束角でもCe単原子の直接観察は困難だった。Ca-α-SiAlON:Euは、CaとEuで原子番号に差があり、Caの占有率が平均で0.5と小さいため、Euの侵入深さを判別可能であることがわかった。
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