本研究では,TSFG(Top Seeded Flux Growth)法にてセンチメートル級の大型な酸化物結晶を育成することを目標の一つとした。特に,紫外光応答型の水分解用光触媒として知られ,窒化により可視光応答型光触媒であるTa3N5に変換できるNaTaO3を目的結晶とした。 2018年度までに,一般的な箱型電気炉を用いてNa2MoO4フラックスからNaTaO3結晶を育成し,最大で8.0mm×4.7mm×0.04mmの板状結晶が得られた。本結晶育成では,結晶化の駆動力は溶液の徐冷による過飽和である。2019年度は,更なる大型化を目指し,徐冷速度や徐冷温度区間を変化させて結晶を育成した。しかし,より大型な結晶は得られなかった。これは,フラックスへの溶質の溶解度が低いことが原因であると考えた。したがって,Na2MoO4フラックスに対するNaTaO3の溶解度測定および別種のフラックスからのNaTaO3結晶の育成を実施した。 Na2MoO4に対するNaTaO3の溶解度では,固相法にてNaTaO3粒子を合成し,それをペレット化して溶質として用いた。加熱温度が高いほど,溶解度が増加し,1500℃における溶解度は, 2.2 mol%であった。これまでに当研究室で測定しているフラックスに対する酸化物の溶解度に比べて,溶解度が比較的低い。この溶解度の低さが,結晶が大型化しない理由の一つと考える。 また,別種のフラックスとしてNa2WO4を用いて結晶を育成した。実施したほとんどの育成条件でNaTaO3が単相で生成した。最大で1.2mm×0.8mm程度の板状結晶が得られた。Na2WO4に対するNaTaO3の溶解度も測定したが,Na2MoO4と同程度であることがわかった。
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