本研究はガラスコーティング層内に、酸素欠陥を導入することで、その濡れ性を制御することを目的し、機能性表面設計の新しい指針の提案を目指すものである。 ガラスコーティング層への酸素欠陥形成メカニズムと、その濡れ性に及ぼす影響を明らかにするため、ターゲット組成として45SiO2・40B2O3・15Na2Oガラスを用い、スパッタ法によりガラスコーティング層を作製した。分光分析の結果から、シリカ四面体に酸素欠陥が選択的に形成され、親水性が向上することを明らかにした。油滴として用いたヘキサデカンに対する濡れ性は、ガラス、ガラスコーティング層ともに、ほぼ同じ値を示した。また、ガラスコーティング層中に酸素欠陥に由来する吸収が、紫外光領域に新たに形成された。紫外線照射によるガラスコーティング層の接触角の変化はほぼ見られなかった。ガラス構造内の結合強度を変えるため、同組成のガラスを熱処理(600℃)により分相化させたものをターゲットに用いた場合においても、同様の酸素欠陥形成と濡れ性の変化が見られた。 本研究で試みたシリカを主成分とするターゲットガラスの組成に関わらず、ガラスコーティング層に水滴が接着後、その接触角は時間経過とともに減少し、20秒以内に2°以下となった。これまでに、ガラスの濡れ性の制御は、その組成制御から検討されてきた。ガラスコーティング層内に酸素欠陥を導入することで、材料表面に微細加工を施すことなく、超親水性を付与できることを見出した。
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