固体酸化物形燃料電池の電解質としての利用が期待されている酸化物イオン伝導性を示す結晶に注目し、原子配列と導電特性の相関関係を明らかにするため、以下の実験を行った。 水熱法により得られたLa9.33Si6O26系材料について、SiサイトへのAl置換が原子配列に及ぼす影響を明らかにするため、X線・中性子全散乱測定を実施し、得られた構造因子と2体分布関数をモンテカルロ法により解析した(逆モンテカルロモデリング)。このとき、Si-OとAl-O間の原子間ポテンシャルを第一原理計算により決定し、構造解析に適用した。その結果、従来の結晶構造解析では明確な知見が得られなかったSiとAl周辺の局所構造の差異を明らかにすることに成功した。また、得られた原子配列に存在する空間を詳細に解析することにより、Al周辺では酸化物イオンが伝導しやすいことが示唆された。 さらに、得られた原子配列を用いて第一原理計算により電子構造を検討した結果、Si-OとAl-Oの結合性の相違がAl置換による酸化物イオン伝導性に向上に寄与していることが示唆された。また、第一原理分子動力学計算により酸化物イオンの伝導経路の可視化にも成功した。 本研究により確立した原子間ポテンシャルを用いた全散乱データの解析手法の有効性を他の物質でも実証するため、これまでに優れた酸化物イオン伝導性が報告されているLa1.5Sr0.5Ga3O7+δとNa0.5Bi0.45TiO3-δについても同様の解析を行った。その結果、結晶構造としては同じ席を占有する原子を区別することに成功し、格子欠陥の分布やその周辺の局所構造と酸化物イオン伝導性の関係を明確にできた。
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