研究実績の概要 |
本研究では固相成長法を用いて、これまで得るのが困難であった組成が均一で数センチサイズの大きさのニオブ酸ナトリウムカリウム[(K0.5Na0.5)NbO3、KNN]非鉛圧電単結晶を製造することを目的とする。固相成長法とは、通常のセラミックプロセスで単結晶を製造する方法で、種結晶を成形体の中に埋め込み焼結することで、種結晶を核とした異常粒成長を成形体に誘起し、多結晶体を単結晶に変える方法である。そのために必要な焼結温度・時間・雰囲気、種結晶の種類・配向、焼結助剤の種類・添加量等のパラメータが単結晶成長に与える影響を明らかにする。本研究により、組成が均一で数cmサイズのKNN非鉛圧電単結晶の育成が可能となれば、結晶異方性を利用し、ドメイン構造制御を行うことで、環境負荷の高いチタン酸ジルコン酸鉛を代替することが可能となり、この問題の解決に大きく寄与できる。 H29年度は焼結助剤の種類・添加量、種結晶の種類・配向性の影響を調査した。焼結助剤には、酸化コバルト(Co3O4)または銅酸ニオブ酸カリウム[K4CuNb8O23, KCN]を用い、Co3O4は1, 2, 5wt%、KCNは0.5mol%添加した。種結晶には(100), (110), (111)SrTiO3 (ST)と(100), (110)KTaO3 (KT)の5種類を用いた。種結晶がSTのとき、KNN単結晶は成長しなかった。一方、種結晶がKTのとき、KNN単結晶が成長した。1040度, 100hで焼結した場合、種結晶を(110)KTとし、Co3O4添加量を1wt%としたとき、単結晶の成長距離は67umと最も長くなることが分かった。 H30年度は目標を達成するために、(1)焼結温度の検討、(2)焼結雰囲気の検討、(3)種結晶への焼結助剤のコーティングとコーティング量の検討、(4)加圧焼結の検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は(K0.5Na0.5)NaO3 (KNN)粉末中に種結晶を埋め込んだ成形体を焼結することでKNN単結晶を作製した。焼結は酸素雰囲気で行うため、管状電気炉を購入し、配管等の装置の立ち上げを行った。 まず、種結晶なしでKNNセラミックスを作製し、KNN単結晶作製に必要な異常粒成長が起こる条件について調査を行った。異常粒成長を誘起させるために焼結助剤としてCo3O4粉末を 1, 2, 5 wt%加えたKNNセラミックスと、K4CuNb8O23 (KCN)粉末を0.5 wt%加えたKNNセラミックスを作製した。焼結助剤を添加しないKNNセラミックスでは異常粒成長が起こらなかったが、Co3O4粉末を加えたKNNセラミックスでは、焼結温度を1040度とすることで、KCN粉末を加えたものでは1060度とすることで異常粒成長が起こることが分かった。また、焼結助剤の添加によって異相が生成しないこと、電気特性と相変態温度に大きな変化がないことを確認した。 次に単結晶の作製を行った。種結晶は(100), (110), (111)SrTiO3 (ST)と(100), (110)KTaO3 (KT)を用いた。種結晶がSTのとき、その結晶方位、焼結助剤の添加の有無によらず、KNN単結晶は成長しなかった。一方、種結晶がKTのとき、種結晶の接着面からKNN単結晶の成長が観察された。1040度, 100hで焼結したとき、KNN単結晶の成長距離はCo3O4の添加量によらず40umほどで、(110)KTではKNN単結晶はCo3O4の添加量が1 wt%のとき67umと最も成長することが分かった。
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