本研究の目的は,申請者が独自に考案した力学モデルを用いてナノ繊維分散による熱可塑性高分子の強さ向上機構を解明することである.繊維径が100nm以下であるナノ繊維は高いアスペクト比(繊維長/繊維径)を有するため,従来の繊維よりも少ない分散量で高い強さを得ることができるが,その機構は明らかとされていない.本研究を通じて,補強材としてのナノ繊維の位置づけを明確にすることを目的として,研究を遂行した. 平成30年度は1種類の多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が分散したナノ繊維強化熱可塑性高分子(NFRTP)の降伏条件が高分子の種類によらずMWCNTの破断によることを示唆した.具体的にはNFRTPの静的3点曲げ試験を行い,曲げ降伏開始応力と曲げ弾性率の関係を求め,両特性の間に比例関係が成立したこと,そして,NFRTPの動的破壊靭性が対数複合則を適用することで予測可能であったことの2点から,この示唆を得た.さらに,3点曲げ試験から得られた曲げ降伏開始応力と曲げ弾性率の関係より,その比例定数がMWCNTの破断伸びに対応することも示唆された.この結果はNFRTPの3点曲げ試験を行うことで,その結果からナノ繊維の破断伸びを推測できることを示唆している.この手法が確立すれば,従来測定が困難とされるナノ繊維の物性評価を容易に推測できるようになる. さらに,短繊維繊維強化熱可塑性高分子にMWCNTを極微量分散させることで同材料の降伏応力が向上することを見出した.この機構について,ナノサイズであるMWCNTが繊維の周りに分散しており,これが繊維/母相界面の強さを向上させていることをウエルド強さ評価結果より示唆した.この機構による界面強さ向上は極微量のナノ繊維添加で可能であり,かつ母材に依存しないと考えられるため,本成果は汎用性に富んだ繊維強化材の補強技術としての発展が期待される.
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