昨年度は、温度応答性ポリマーを酸分解性リンカーで架橋したハイドロゲルを層状ニオブ酸塩 (NbO) の層間Ⅰに修飾後、層間Ⅱを剥離することでpHおよび温度変化に応答して単層への剥離や水中での相転移を起こす刺激応答性2層構造ナノシートの合成を達成した。今年度は、DDSキャリアのステルス性を担う2層構造ナノシートの表面への生体適合性ポリマー修飾を試みた。また、ナノシートの細胞取込を可視化するために蛍光性分子を2層構造ナノシートの層間に修飾することも併せて検討した。昨年度の検討を元に、NbOの層間Ⅰに重合開始基を有するホスホン酸を修飾した後、層間Ⅱにピレン環を有するホスホン酸を修飾した。その結果、XRD測定による層間距離の拡大やICP測定によるリン含有量の増加が逐次的に見られ、NbOの層間Ⅰおよび層間Ⅱに異なる有機ホスホン酸が修飾できたことを確認した。この修飾NbOを用い、表面開始原子移動ラジカル重合による層間Ⅰへのポリアクリルアミド (PAAm) 修飾を行ったところ、TG-DTAによる有機基由来の重量減少やXRD測定による積層構造の消失を確認した。また、TEMやAFM観察から層間剥離によるナノシート化を確認し、このナノシート分散水溶液は蛍光性と高い分散安定性を示した。この結果は、疎水性のピレン環を有しつつ、親水性のPAAm修飾によって水中で安定に分散できるナノシートとなっていることを示唆しており、生体適合性を有するPAAmが表面に修飾され、同時に蛍光性多環分子が層内に固定化された2層構造ナノシートの合成に成功したと考えられる。昨年度の成果と併せ、薬物キャリアに必要となる機能性分子を位置選択的に修飾した刺激応答性2層構造ナノシートの創製における基盤技術を確立できた。
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