研究実績の概要 |
1.酸化物固有の照射下安定性評価 Y2Ti2O7, YAlO3(YAP), Y2Zr2O7を対象としてYと(Ti, Al, Zr)の位置を交換させた場合の格子安定性を、第一原理計算における構造緩和によって調査した。計算時間を短縮するため、k-point, cutoffエネルギーを簡略化して行った計算では、Y2Ti2O7に1/8のアンチサイト欠陥を導入しただけで、絶対零度においてアモルファス化が見られた。しかしその後の精密化した計算においては1/8のアンチサイト欠陥で格子位置がやや歪んだものの、アモルファス化はしなかった。773KにおけるY2Ti2O7の構造緩和では、簡略化した計算でも元の結晶構造が保たれた。YAlO3, Y2Zr2O7は絶対零度で1/8のアンチサイト欠陥を導入しても、元の結晶構造が保たれた。
2.ODS鋼中酸化物粒子の耐オストワルド成長特性評価 Fe-12Cr-0.5Y2O3(以下、単位は全てwt.%)を基本組成とし、マトリクス中にY-Ti, Y-Al, Y-Zr複合酸化物をそれぞれ意図的に析出させるため、0.21Ti, 0.5Al, 0.3Zrをそれぞれ添加したモデル合金を作製した。これらモデル合金と軽水炉事故耐性燃料被覆管として開発されたFe-12Cr-6Al-0.5Ti-0.4Zr-0.5Y2O3(12Cr6Al0.4Zr-ODS)を、773K, 最大62.5dpaまでFeイオン照射した。TEM解析の結果、0.21Ti, 0.3Zr-ODSについては酸化物粒子サイズ・数密度ともに殆ど変化がなかった。しかし0.5Al-ODSについては照射後の酸化物粒子サイズが1.5倍に上昇し、数密度は1/3まで低下した。12Cr6Al0.4Zr-ODSでは酸化物粒子サイズが変化しないまま、数密度が一桁低下した。
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今後の研究の推進方策 |
1.酸化物固有の照射下安定性評価 Al, Zr添加ODS鋼はYAP, Y2Zr2O7以外の多種類の酸化物粒子が存在するため、残りの複合酸化物の耐照射特性を第一原理計算の構造緩和により評価していく。
2.ODS鋼中酸化物粒子の耐オストワルド成長特性評価 0.5Al-ODSのみ照射下オストワルド成長が見られた原因について、Fe中のAlの固溶限の温度変化や照射下におけるFe中YAlO3の自由エネルギーの上昇について熱力学計算ソフトを用いた調査を行う。また、12Cr6Al0.4Zr-ODSの数密度減少は照射下オストワルド成長では説明できない。12Cr6Al0.4Zr-ODS のHRTEMによる酸化物粒子構造解析からは、酸化物粒子の欠け・形状変化が見られ、歪な形をした酸化物粒子の近傍にごく小さな酸化物(1nm以下)の結晶が存在することが分かっている。TEMの限界として1nm以下の粒子を数え落としたことを考慮すると、小さな酸化物粒子が大量に分散している(照射下逆オストワルド成長)の可能性が考えられるため、Fe中のY-Zr複合酸化物の核形成頻度を考慮した反応速度論式を用いて、酸化物の照射効果を予測する。更に、H30年度は500℃における酸化物粒子の安定性をイオン照射によって評価したが、Y2Ti2O7のアモルファス化臨界温度は500℃以下であると言われているため、新たに400℃のイオン照射を行い、Fe中酸化物粒子の安定性評価を行う。
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